第136話 宮中パーティー②

 ルーシー達がラウンジでくつろいでいると、ニコラスがルーシーの前に現れた。


 ルーシーはてっきり周りの男性陣と同じく黒いタキシードを着てくるものと思っていた。


 二つ目のケーキに手を伸ばそうとした瞬間、ルーシーの手は止まった。

 不覚にもルーシーはニコラスの服装をカッコいいと思ったのだ。


 ルーシーにはファッションの知識は無い。だがなんとなくエレガントな感じは分かる。

 それは皇族の礼服だろうか、軍服の様なデザインの白い生地に肩には金色のモップの様な飾りがついている。

 そして胸にはカルルク帝国の紋章が刺繍されている。

 それは学園のブレザーについている刺繍よりも大きく豪華だった。


 ルーシーは目の前の同級生がまるで本物の皇子様のようだと思った。


「……あ、そっか。ニコラス殿下は本当にカルルク帝国の皇子様だったんだ……」


 隣にいたソフィアは思わずズッコケそうになった。


「ちょっと、ルーシーさん。開口一番でそれ? 他に何か気の利いた言葉とかないんですの?」


 そういうが、他に感想が思いつかない、ただカッコいいなと思うだけで気の利いた言葉が出てこないのだ。


「うーむー。なんて言ったらいいだろうか……なんで肩にモップが……」 


 普段、はきはきと喋るルーシーが珍しくぶつぶつと独り言を呟く。


 そんなルーシーを無視してニコラスは言葉を発した。


「ル、ルーシー、その、……とても綺麗だ。その、なんていうか、良く似合うと思う、その何だろう、えっと、まるで闇の住人のようで……」


 次はセシリアがズッコケかける。

 皇子も格好とセリフがちぐはぐだったのだ。


 衣装はばしっときまっていても優柔不断な口調のせいで全て台無しだった。


 だが同時にいつものニコラス殿下だと皆を安心させるのだ。

 ルーシーも直ぐにいつもの態度に戻る。


「むー、そんなこと言って殿下も私の黒いドレスは葬式みたいとか思ってるんでしょ?」


 ルーシーはちょこんとスカートをつまみ、やや上目遣いで自信なさげにニコラスに尋ねる。

 その仕草は幼さと大人っぽさが合わさる何とも魅惑的な姿であった。


「そ、そんなことはない! とても魅力的だ。大人っぽいというか、まるで地獄の女監獄……いや、なんでもない。とにかく黒いドレスは君に良く似合ってるよ」


 今度はニコラスの正直な誉め言葉を聞けて満面の笑みになるルーシー。


「そう? ならよし! さあニコラス殿下、エスコートしてくださるんでしょ? いざ決戦のダンスホールへ」


 ルーシーの差し出した手を取るニコラス、二人は一緒にラウンジの扉を抜け、パーティー会場がある大広間へ向かった。


「うふふ、ルーシーさん、殿下相手にすっかり砕けた口調になってますわね」


「うん、実にお似合い。……ところで、我々のパートナーは?」


 セシリアはニコラスと共にやってきたアベルとゴードンを見る。

 二人とも仕立ての良いタキシードを身に着け、髪もオールバックに整えている。


「……ふむ、なるほど。馬子にも衣装という。二人とも立派な紳士、この間は失礼なことを言いました。正直に反省」


「どういたしまして、そう言っていただけて我らモブも光栄です。ではお手を、セシリアお嬢様」


「うふふ、アベルさんはセシリアさんの言葉を憶えてらっしゃいますわね。でも本当に素敵よ、見違えたわ。もちろんゴードンさんも、では今日は私達のエスコートをよろしくお願いしますわ」


 ゴードンはソフィアに跪く。


「はい、ソフィア嬢。このゴードン、今宵は家同士の関係は無しに同級生としてダンスのお供をさせていただきます」


「はい、今宵だけ私はレーヴァテイン家とは関係ございませんわ。では参りましょう」



 ◆◆◆



 夕方の市街。

 今日は宮中パーティーに合わせて市街もお祭りムードである。


 空想上の妖精エルフやドワーフ、王女様に悪い魔法使い等の様々な仮装衣装を身にまとった市民たちが楽しそうに祭りを楽しんでいる。


 路上には様々な露店が並び、テーブルを囲んで各々が年末のパーティーを楽しんでいる。


 その喧騒の仲、黒いフードを深く被った、いかにも魔法使いらしい四人が一つのテーブルを囲っていた。  


「準備は整った。ホプライト、フードラム、ヘリックス。今宵は我ら闇の執行官が世界を取る」


「ふふ、ヘイズ様、それは少し気が早いのでは? 最大の敵は海のドラゴンロード・ベアトリクスでしょ?」


「ふっ、そうだな。だがホプライトよ、ルシウスを我が支配下に置けば後はどうとにでもなるだろう。

 我らには弱者の知恵がある、ドラゴンロードと同等の力を手に入れればベアトリクスとて容易に滅ぼすことは可能だ」


「それにしても、ホーカムが居ないのが悔やまれますな。もっとも、彼のおかげで奇しくも無名仙人は街から離れることになりましたが……」


「うむ、そのことだがフードラムよ、それは本当であろうな? もし奴がこの街にいたら作戦は直ちに瓦解するのだぞ?」


「はい、間違いありません。奴は自分がいたら我々は決して行動を起こさないだろうと結論をつけたのか今はグプタにいるようです。もっともこれ自体が我らに事を起こさせるための罠であると思いますが……」


「それならばよい。どの道、今を逃せば二度と機会はないだろう。ホーカムという貴重な戦力を失ったのは惜しいが、それ以上の結果を残してくれた。お前達も彼の犠牲に報いるように働いてくれることを期待する」


「お任せを、我ら闇の執行官の頂点であるヘイズ様の為に我らは全力をつくします。そして世界を我らの物にしましょう」


「うむ、では打合せ通り、俺の合図と同時に作戦開始だ。以降は各々の裁量に任せる。できるだけ目立てよ? 以上、解散!」

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