第134話 宮中パーティー当日
今日は宮中パーティーの当日。
オリビア学園女子寮、ルーシーとソフィアの部屋にて。
参加者である二人はドレスアップに励んでいた。
ルーシーは思う。ソフィアがいてよかったと。
ダンスの練習の時は全く役に立たなかったポンコツ伯爵令嬢だったが、ドレスの着方は慣れたものだった。
きっとルーシー一人ではドレスは着れなかっただろう。
まず、彼女はこんな複雑な服を着た事が無いのだ。
三年前にレスレクシオン号で着たドレスは所詮は子供用。大人用のドレスはいろいろと面倒くさいのだ。
やっとのことで着替え終わるとルーシーは鏡の前に立つ。
鏡に映る自分の姿はまるで別人のようだった。
ドレスの黒い生地は深みと輝きがあり高級な素材が使われていることがうかがえる。
黒のドレスと彼女の透き通るような白い肌とのコントラストが、普段の無邪気な少女らしいルーシーに大人の妖艶さを醸し出している。
アクセントに赤いリボンカチューシャが灰色の髪に優雅に飾られ、ドレスの黒を一層引き立てるとともに妖艶さに少し遊び心を加えている。
ルーシーは鏡の自分ににやりと笑う。
「ふははは。我ながら可愛いではないか。やはり私には黒が良く似合うのだ、わっはっは!」
『ふははは。我も同意よ。ついこの間まで赤ん坊だったお前がたった数年でここまで立派に育つとはな。世を忍ぶ仮の姿としては中々ではないか。我は大いに満足だ。わっはっは』
…………。
変な声が聞こえた。
鏡に映る自分が喋る訳が無い。
「うん? ソフィアさん、今なんか変なこと言った?」
ちょうどソフィアも着替えが終わっている。だが何か言った雰囲気ではない。
「もう、さっきから鏡の前で変なことを言ってるのはルーシーさんですわ。さあ、そろそろ私にも鏡を貸してくださいまし」
独り言だったのか。
まあ独り言なのだろうとルーシーは納得するも、ソフィアは鏡の前に立つと久しぶりにあのポーズを取る。
「ふっ、我は深淵を覗く者。剣の英雄王と破壊の大魔導士の娘。ソフィア・レーヴァテイン。今宵は初めての社交界デビューの日、聞け、深淵を覗くとき……」
鏡に向かってぶつぶつと喋るソフィア。彼女は極端に緊張をするとたまにそういう行動をとるのだ。
「……なんだ、やっぱり変なこと言ってたのはソフィアさんじゃないか」
実際に変なことを言ってたのはお互い様であるが。ルーシーは自分のことはすっかり棚に上げていた。
それはそれとして、ソフィアのドレスもとても良く似合っている。
真っ赤なバラの様なドレスは彼女の綺麗な縦ロールの金髪に良く似合う。
あえて言えば、派手過ぎで目立つんじゃないかとルーシーは心配になった。
だが、派手さで言えば真っ黒なドレスを着ているルーシーとて同じだ。
これも自分のことをすっかり棚に上げてしまっているのだった。
ちなみにソフィアが目立つ格好をしているのはそれなりに理由がある。
レーヴァテイン家に不用意に近づかないようにという貴族としての政治的配慮があるのだった。
コンコン。
ノックの音と共に扉が開く。
「ルーシーさん、ソフィアさん。準備はできた? もうすぐお迎えの馬車が来る頃。そろそろ女子寮を出ないと」
セシリアにリリアナだった。
セシリアのドレスはかなり変わったデザインだった。黒をベースとしているが前はエプロンのように白い。
そして至る所にフリルが付いており、見ようによってはメイド服の様に見えるがこんな派手なメイド服は存在しない。
「セシリアさん可愛い―。それってなんていうドレス?」
「ルーシーさん。これは父上が特注して作ったから分からない、これ一着しかないから。
……それに父上の趣味全開だから少し恥ずかしい。
でもこのデザインは気に入ってる。それに社交界で広まれば今後の売り上げにつながるので私も我慢してる」
さすが商売人の娘だと感心するばかりだ。
「皆、派手過ぎだわ。でも少しうらやましいかも、来年は私もそういうのに挑戦してもいいかも……でも立場があるし……うーん」
リリアナは子爵令嬢である。派手な服を着るのは身分的に有り得ない。
それに、どの階級でも皇帝主催のパーティーで派手なドレスを選ぶのは良い事ではないのである。
リリアナのドレスは原色ではなく淡い色合いで落ち着いたデザインであった。
「うーむ、でも、リリアナさんだって素敵じゃない。美人は着る服を選ばないのだ、わっはっは」
「一番派手なルーシーさんにそう言われると少し複雑だけど……。うふふ、でもありがとう」
そう、ルーシーはお世辞は絶対に言わないのは皆知っている、そんな彼女の本心からの感想を素直に受け取るリリアナだった。
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