第133話 レッスン
ノイズ交じりのワルツが聞こえる。
この魔法機械が普及したら音楽隊の仕事が無くなってしまうのではとルーシーは疑問を口にした。
アンナとジャンはお互いの顔を見ながら言った。
「まあ、大丈夫じゃないか? だってこの音質だぜ? 所々ぶつぶつと変な音がでるし。それに同じ音楽を繰り返し聞いたところで生の演奏にはどこまで行っても勝てないさ」
たしかに音質がこもっているが、これがもう少し改善されたら分からない。
ジャンとアンナは音楽家に恨まれるのではないかと心配だった。
「うふふ、大丈夫だよー。だってこれが演奏するわけじゃないし、演奏してくれる人がいないとそもそも録音できないし、音楽家がいなくなったらこれはただの箱だわ」
こうして、ジャンとアンナが音の出る魔法機械の微調整を終えると、ダンスの練習は始まった。
それぞれがペアを組み、ステップの練習を始める。
「あ! ごめんなさい、また足を踏んでしまいました」
ルーシーは運動音痴だ。ステップのたびにニコラスの足を踏む。
初心者なので当然こういうことはよくある。
ニコラスは平気な顔だ。
むしろ多少の痛みがあった方が、煩悩を消し去ることが出来る。
再び音楽に乗ってダンスの練習をする。
だがさすがに回数が多い。今度は思いっきり踏んづけてしまった。
「痛! ルーシー。……さすがにわざとじゃないよな?」
勢いがあったのか、さすがのニコラスも顔をゆがめる。
「むー、わざとじゃないのだ。……でも、ごめんなさい。うーむ、少し休憩しましょう。
殿下、私のせいで足に怪我をしてしまったかも。
靴を脱いでください。回復魔法をかけないと……」
「ルーシー。君がしてくれるのか? でも、このくらいなら自分で何とかするよ」
「むー、それくらいの責任は取る。さあ、殿下、靴を脱いでください」
言われた通り椅子に座り靴を脱ぐとニコラスの足には青あざが出来ていた。
ルーシーは健気にニコラスの足に回復魔法を唱える。
「せ、セシリアさん。今の見ました? なんということでしょう」
「うん、私も見た。ソフィアさん、あれはかつてキャンプ実習の時にリリアナさんがアイザックさんから受けた愛のヒール。……ルーシーさん、やる。二人の愛は深まるばかり」
突然自分のエピソードが出てきたのか顔を赤くするリリアナ。
「ちょっと、二人とも、私のことはどうでもいいじゃない。それにお二人の進捗はどうなんです?」
「どうって……、まあ私達はしょせん添え物、そこそこでいいでしょ? 楽勝」
「その通りですわ。問題はルーシーさんが恥をかかないように全面的にバックアップしないとですわ」
彼女らの会話にアベルが加わる。
「うむ、たしかに、噂以上に運動音痴だ。これは少し大変だぞ。だが時間はまだある。僕達も毎日付き合うとしよう」
アベルにゴードンも毎日練習に参加することになった。
ルーシーは運動音痴であるが努力家である。
何度かステップの練習をしながら徐々にパートナーに合わせることが出来るようになっていった。
「よし、なかなかに上達してきたじゃないか、これならルーシーの出自を踏まえれば問題ないレベルだろう。なぁ、ソフィア・レーヴァテイン」
ニコラスはルーシーの努力を素直にほめる。
それと同時に新たな事実が発覚してしまった。
伯爵令嬢であるはずのソフィアも案外ダンスが苦手、というかかなりの下手だという事が発覚してしまったのだ。
ルーシーと違って運動音痴という訳ではないがリズム感がいまいちで不格好なのだ。
「なんてことかしら、これではレーヴァテイン家の恥になってしまいますわ。ここは、やはり欠席すべきかしら……」
「えー。ここまできてソフィアさん、欠席になんて寂しい事言わないでよ」
「そう、ルーシーさんの言うとおり。それに殿下の招待状を断るのはむしろ政治的に勘ぐられる可能性がある、ふふ、ソフィアさん残念」
そういうセシリアはあっという間にダンスを憶えてしまった。
さすがはニンジャーというところだろうか、三人の中では最も上手いといえる。
「セシリアさんはさすがですね。さあ、皆さんも口ばかり動かしてないで練習あるのみよ」
リリアナは手を叩くと練習は再会された。
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