第119話 無名仙人の都会観光
「ほっほっほ。両手に花よの、やはり学園はいいのう。ほっほっほ」
仕立ての良いタキシードを着た老人は女学生3人に囲まれて上機嫌であった。
その老人は白髪ながらも綺麗に散髪され、髭も綺麗に整えられている。背筋も延びており、側にメイドを連れている姿からどこかの貴族かと思わせる風貌であった。
そう、無名仙人は高級な紳士服店で仕立ての良いタキシードを購入。
理容室にて散髪の後に再び学園に戻ると、ルーシー達を誘い街に繰り出していたのだ。
無名仙人曰く。会議室であれこれ言っても進展はない、事件は現場で起きているのだと言い張るとルーシー、ソフィア、セシリアを誘い街に来ていたのだ。
ルーシーとしてはセシリアの曾祖父が来ているとのことで紹介したいと聞いていたのだが、まさか街に繰り出されるとは思わなかった。
もっとも、今日は休日である為、とくに用事のないルーシーには丁度よかった。
セシリアの曾祖父は随分と羽振りがよさそうなので、ここはお招きにあずかろうというところだ。
「あのー、セシリアさんのお爺さま、本当にいいんですか? 奢ってもらって嬉しんですけど、なんか気が引けちゃうっていうか……」
さっそく高級感のある喫茶店でご馳走になったルーシーは少しだけ気が引けた。
「ほっほっほ。ルーシーちゃんよ。遠慮はいらんぞい、なんでも買ってやろうではないか。セシリアちゃんにソフィアちゃんも遠慮はいらんぞい。ほっほっほ」
「くそじじい……こほん。師匠……確かにセシリアを甘やかす権利をあげましたが、さすがに金銭的な援助は止めていただきたいと、というか、師匠はお金を持っているのですか?」
「ふ、セバスティアーナよ。儂を甘く見てもらってはこまるのう。こう見えて儂は物書きをしておっての、働かずともその印税が入ってくる仕組みよ」
無名仙人は金貨が入った袋をじゃらじゃらとさせる。
「物書き? それは、モガミの里の掟に反するのでは……」
「ふ、セバスティアーナよ。たしかに掟では後世に書を残すことは許されておらん。だが儂の書いた物は全てフィクションじゃ。故に掟に反してはおらん。はっはっは」
そう、モガミの里の掟では、門外不出のモガミ流忍法や成り立ち、そして彼らの歴史については全て口伝で行う事という掟がある。
だが、創作物であるならば掟に反していないともいえる。
実にグレーな解釈だが、掟とはいったい何なのだろうと、セバスティアーナは困惑する。
「小説家でいらしたのね、すごいですわ。………えっと、おじいさまの事は何とお呼びすればよいでしょう、無名仙人様とお呼びすればよろしいでしょうか」
「ほっほっほ、ソフィアちゃんにルーシーちゃんよ。儂の事はぜひ、おじい様と呼んでおくれよ。無名仙人など堅苦しいでの、ほっほっほ」
「まったく、師匠は相変わらずなんですから。ところで小説を書いていらしたなんて初耳です。どんな物をお書きになったのですか?」
「ふむ、代表作は『地獄の女……』、いや、お嬢ちゃん達の前では言いずらい内容でのう。ま、作者は自分の本の自慢などいちいちせんわい。まあ書いたのは数十年前で当時は大ヒットしたとだけ言っておこう」
そう言うと、上機嫌の無名仙人はルーシー達を引き連れて街を練り歩くのだった。
ふと、疑問に思うルーシーはセバスティアーナに尋ねる。
「そう言えば、マーガレット先生たちはどうしてるんですか? 私達、皆でお茶会があるからって、呼ばれたのですが……」
「ああ、それですが、ルカ様にオリビア陛下のお三方で久しぶりに女子会をするそうです。積もる話があるようで随分と盛り上がっておりました」
「へえ、そうなんだ、三人は幼馴染だったんでしょ? 素敵ね。私達もいつかそういう関係になれたらいいね」
「もう、ルーシーさんったら、たまに照れくさいことを言いますわね」
「ルーシーさんは情に厚い、それはとても良い事。それに私も同意、おばあちゃんになっても皆と仲良くしたいのは本音」
「ほっほっほ。いいのう、女の子同士の友情。まさにファンタジーじゃのう。ほっほっほ」
セバスティアーナは呆れたとばかりに口を閉ざしながら、それでも無名仙人の一挙手一投足を監視している。
無名仙人はセクハラ仙人でもあるのだ。
セバスティアーナはかつて修行を受けていたころのセクハラ三昧を思い出す。
「ほっほっほ。セバスティアーナよ。目が怖いぞ? 安心せい、さすがにわきまえておる、それに嫌われては儂とて不本意じゃしな。ほっほっほ」
そう、無名仙人は弟子には厳しい、そしてセクハラは当たり前、嫌なら師弟関係を解消、損を被るのは弟子である。
だが、今は孫馬鹿のじいさんである。嫌われる行動は決してしない。
「ち、師匠は相変わらず小賢しいですね」
「ふっ、誉め言葉と受け止めよう。……さて、お嬢さんたち、儂は久しぶりに街に来たでのう、お勧めのスポットに案内してくれんかのー。ほっほっほ」
「おじい様、鼻の下伸ばし過ぎ、そういうのは良くない」
「ほっほっほ。セシリアちゃんはお母さんに似て厳しいのう。しかし、モガミの血を濃く引き継いでいるのだろう、その綺麗な黒髪はもっと伸ばしたらよいぞ。ほっほっほ」
こうして、老人とメイド、少女の三人は街を散策した。
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