第95話 帰省⑥
「ふははは! 我はベッドルームのドラゴンロード・ルーシーである!」
「あはは、ルーシーちゃんなにそれー、でもベッドルームのドラゴンって逆にエッチに聞こえるよー?」
「むー、すぐにエッチな話に持ってくんだから、そんなアンナちゃんには喰らえー!」
ルーシーはふかふかで大きな枕をアンナに投げる。
「ちょっと、ルーシーさん。枕で遊ばないでください。それに行動が子供っぽいですわ、きゃっ!」
「ふふふ、ソフィアさん。隙あり、私もいることを忘れてもらってはこまる」
ここはオアシス都市パミールの最高級の宿、ベッドルームはかなり広い。
ルーシーは今までで一番大きなベッドルームについはしゃいでいたのだ。
部屋割りは、ルーシー、ソフィア、セシリアにアンナの四人。
カイルとシャルロットの二人。
アランとジャンの二人である。
「おい、お前等うるさいぞ!」
隣の部屋からジャンが入ってくる。
「ジャン君、女の子の部屋に入るならノックしなきゃだめだよー」
「ノックしてただろ? それが聞こえなくらいにお前等、はしゃぎ過ぎなんじゃないか。静かにしないと他のお客さん達に迷惑だぞ!」
ジャンの言う事は正論だった。
「た、たしかに、ジャン先輩のおっしゃる通りですわ。ごめんなさい。……で、なぜジャン先輩はここに入ってきたんですか?」
そう、ジャンは部屋に入ってきていた。
「ま、まあ、俺だって女子の部屋に入るのはどうかと思うぜ。でも大人組はさっき、中庭のバーに行ってしまってな。俺はこっちに合流するようにって、ソフィアさんのお母さんに言われたんだよ」
「そっかー、大人の人ってああいうおしゃれなバー好きだよねー、ジャン君も本当はそっちに行きたかったんでしょ?」
「それはいいよ、背伸びしてもしょうがないし、お酒はまだ飲めないしな。素直にお前達、子供チームに参加してやるさ」
「子供とはなんだ! ジャン君は今、女子達のベッドルームにいるんだぞ!」
「はぁ、ルーシー。そういうところが子供って言うんだよ。最近は大人になったなって思ってたら、たまに子供に戻るよな、お前ドラゴンロード・ルーシーは卒業したんじゃないのか?」
はしゃぎ過ぎたのは否めない、ジャンの言葉に言い返すことができずにいると、ジャンはため息交じりに椅子に腰かける。
実に落ち着いている。ジャンはいつの間にか大人になっていた。
魔法機械を目にすると今でも子供っぽい態度を取ることは有るが、それでも2歳年上、ルーシー達よりは遥かに大人だと言える。
「あ、そういえば先輩方。折角ですし、ぜひともルーシーさんの昔話が聞きたいですわ」
「あ、それ、私も気になる。ルーシーさんは時折ドラゴンロード発言をする。いつからこうだったんですか?」
ジャンは椅子に座り、手を顎に当てながら少し考える。
「……さあな、俺達も物心ついた頃からルーシーはアレだったぜ? なあ、アンナ」
アンナはふかふかの枕をお腹に抱き、その感触を楽しみながら答える。
「そだねー。女神様と喧嘩するときによく言ってたよねー。ルーシーちゃんっていつも女神様と喧嘩してたから。でもなんで喧嘩してたの? 実は私もルーシーちゃんに聞きたかったんだー」
「むう、今は休戦中だ。ちなみに喧嘩ではない。……あれ? よくよく考えるとなんで私はドラゴンロードなんだろう?」
ジャンは大げさにズッコケる。
ルーシーの何とも言えない回答に一同も同じ気持ちだろう。
「……なんでって、俺達がそれを知りたいのに本人がそれじゃ迷宮入りじゃないか!」
といってもルーシーも本当に知らないのだ。
「……あ! 夢、そう夢の中で私はドラゴンロードになるんだった。でも直ぐに忘れちゃうから……」
「なるほど。子供の頃のルーシーさんはグプタの女神であるベアトリクス様に憧れて、それで将来はドラゴンロードになりたかったのですわね。とっても素敵な夢ですわ!」
ルーシーはソフィアの言葉に否定しようとしたが、いまいち理由が見当たらない。
うーん、なんとなく違う気がするが、かといって否定してもしょうがない。ここは自分で納得するしかないのだ。
それにベアトリクスについても、なぜあんなに毛嫌いしていたのか分からない。子供の頃の自分を恥じるばかりだった。
◇◇◇
一方、中庭のバーにて。
カイルとシャルロット、そしてアランはプールサイドのテーブル席でグラスを傾けていた。
中庭のプールサイドは夜はバーになる。
明かりがプールの水面に反射して幻想的な雰囲気である。お客はまばら、席も離れているため話をするのに丁度いい。
「実は、俺っちはお嬢の護衛のついでに先帝陛下から密命をうけているっすよ。お二人には話した方がいいと思いやしてね。
ニコラス殿下を呪った魔法道具の出所を探ってたら、旧エフタル王国の残党、闇の貴族連合って組織がでてきやしてね、それを追ってるんす。
二年前にグプタの豪華客船レスレクシオン号に現れたコソ泥は旧エフタル貴族の残党らしいっす。今グプタに収監されてる見たいっすから、何か情報が得られると思いやしてね」
「旧エフタル王国の残党ですか……。そういえばソフィアからの手紙にありましたね。俺は魔法道具に詳しくないけど、あと少しで殿下は完全に乗っ取られていたと聞きます」
「そうね。その件でソフィアには無茶するなって叱ろうかと思ったけど。
ソフィアの判断は正しかったし、当時の私でもきっと同じ行動をしたから強くは言えないわね。
でも実力が足りない。ルーシーちゃんのおかげでソフィアは今生きているのよ。ルーシーちゃんには感謝してもしきれないわ」
「そうっすか、俺っちもお嬢の行動は無茶だと思ってましたが……結果的には上手くいったと言えるっすね。団長、いや姫様にはあまり叱らないように言っておくっす」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます