第94話 帰省⑤
翌日、一行はオアシス都市パミールに到着した。
「ほんとすっげー、こんな直ぐにパミールまで来れるなんてな。さっすがベヒモス号だぜ、俺も船にこだわらずに高速馬車の開発もしてみたくなったぜ!」
「ジャン君、世界一の船を作るんじゃないの? アンナちゃんをコック長として雇って乗せるって言ってたじゃん」
ジャンはルーシーの言葉に少し照れながら答える。
「あ、ああ、もちろんそれは忘れてないぜ。というかルーシー、よく覚えてたな。
……でもなぁ、船はお金がかかるんだ。個人で頑張ったってどうしようもないんだ。でも、今回ベヒモス号を見て改めて思った。
食堂付きの高速馬車なら、ずっと安くできるしな、それにアンナを待たせるのも……あれだし」
「なーにー? ジャン君は私を待たせてるのー? 私は全然待ってないから大丈夫だよー。
でも、ベヒモス号を参考にするのはありかもねー。
卒業したらキッチンお風呂付の大型高速馬車を作るのもいいかもー。需要もありそうだし、出資も得られるかも?」
ルーシーは二人のやり取りをみて思った。
なんだ、やっぱり二人は付き合ってるんじゃないか。いや、いつも通りなのかも、ずっと昔から二人の関係は何も変らない。
きっと二人は卒業してもずっと一緒にいるんだ。
自分はこの先どうするんだろう……イレーナの様に冒険者になるのもいい。少しだけ将来について考えるルーシーであった。
ベヒモス号はパミールで一番大きな宿にある馬車置き場に止まる。
「よし、久しぶりのオアシス都市パミールだ、懐かしいな。初めてここに来たときはお金の使い方も分からなくってな、結構散財してしまったよ、なあシャルロット」
「うふふ、そうね。でも、今はお金もあるし、皆も今日は大きなベッドで寝たいでしょ?」
アランはずっと車内にいたために縮こまった身体を伸ばしながら、それに答える。
「お嬢ちゃんに賛成っす。おっと、いけねー、今はレーヴァテイン伯爵でしたね。失礼しやした」
「別にいいわ。じゃあ、さっそく宿を取るとしましょう。ちなみにここは砂漠の宿の中でも格別なのよ、中庭にはプールもあって、とにかく素敵なんだから」
ルーシーはアランに恐る恐る聞く。
「……ねえ、アランおじさん、お金ってどうなってるの? 私、別に馬車で寝てもいいんだけど……」
「お嬢、お気遣いないく、それは俺っちのポケットマネーで何とかなりますぜ。知ってましたか? 俺っちも割とお金持ってるんすよ。……まあ、宿代はレーヴァテイン伯爵が払ってくれる雰囲気ですがね」
「ああ、もちろんさ。宿代は全額俺達が持つよ。今回はソフィアの我儘でグプタに行くんだから、それ位は気にしないでください、今回の御礼と捕らえてもらえると幸いです」
「もう、お父様だってノリノリじゃないですか、私のせいにされても困りますわ」
「はは、ということです。俺達も楽しいんです、遠慮無しにくつろいでください」
「ということっす、でもお嬢は、お返しに何かしたいと思ってるんじゃないっすか?」
「うん、そう、アランおじさんに言われるまでもない。この馬車には警備が必要です、私は優秀な警備員を知ってます。彼に任せてもいいですか?」
「警備員? それなら亡者の処刑人に任せようと思ってたけど……。うふふ、ルーシーちゃん。なんか面白い魔法が使えそうね。ぜひお任せしようかしら」
「はい、シャルロットさんから許可が出たし、さっそく行くよ? いでよ! ハインド君」
ボン! 黒い煙と共に久しぶりにハインドが呼び出された。
『ハインドです……』
「ちょっと! 今こそ、考えた登場の長台詞を言うところでしょう! なんで? 今こそ言わないと!」
『ふ、マスターは今まで何度も省略されておりました。さすがに今さら自己紹介は必要ないかと思いましてな。
……それに、キャンプでは一度も呼んでくれませんでした。悲しいです。私はマスターと共にあるというのに……』
ルーシーに反抗的な態度をとる謎の骸骨。
「……なあ、シャルロット。あれって、お前召喚できるか?」
「無理よ。知性がありすぎる。なるほど、ソフィアが手紙で言ってたルーシーちゃんの固有魔法ね。なにがあったかは分からないけど、あれほどの知性をもったアンデッドの召喚は……ふむ、興味深いわね」
ルーシーとハインドはずっと口論を続けていた。客観的に見てハインドの主張は正しかった。ルーシーは傲慢なマスターであると言わざるを得ない。
「ルーシーちゃんにハインド君。喧嘩はだめだよー。あ、そう言えば、ハインド君、私のあげた本、気に入ってくれたんだよねー。
私達、読書友達だねー。だからハインド君には特別にこれもあげちゃう、だからルーシーちゃんと仲直りしてねー」
アンナはカバンから一冊の本を取り出す。
タイトルは『地獄の女監獄長2』
「ちなみに作者は違うから、ファン小説みたいなもの? いろいろと疑問点があるけど割と傑作よ、読み終わったら感想きかせてね」
『おお、これは、なんということだ。あの小説にも続編があったとは。こほん、今日のマスターとのいざこざは水に流すことにしましょう』
「ぐぬぬ、私の魔力で出現しているくせに、生意気な……でも、馬車の見張りをしてくれるならそれでいい」
「もー、ルーシーちゃんがいけないんだよー。もっとハインド君を呼んで遊ばないと。犬だって散歩しないとすっごく怒るんだから」
こうして馬車の警備体制は万全に整った。
ちなみに、ハインドは車内で読書をすると言っていたので、結局はシャルロットの召喚した亡者の処刑人が外の警備をすることになったのだが。
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