第77話 キャンプ実習②
「皆さまお疲れ様でした。お茶の準備が出来ていますので休憩にしましょう」
セシリアはいつの間に着替えたのか、エプロン姿で携帯用の金属製のティーセットを用意していた。
「金属製の茶器は冷めやすいのが欠点ですが、まあアウトドアですので手早く飲めるのはそれも利点と言えますか……」
そういうと、4人分のお茶が配られる。
ルーシーは真っ白なエプロン姿のセシリアにどこかで見たような、そんな既視感を覚えた。
「あっ! もしかしてセシリアさんのお母様ってセバスティアーナさんですか?」
無表情だったセシリアの顔が少しだけ動く。
「はい。……驚きました、母上をご存じでしたか。そういえばグプタにいたこともありましたね、ふらっと帰ってはまた仕事と言ってどこかへ行ってしまうのですから、とんだ母親です」
セシリアは母をよく思っていないようなので、これ以上は話すのを控えることにした。
ルーシーはキャンプ場に視線を向けると、まだテントの設営に悪戦苦闘している生徒達が何組もいた。
「ふふふ、圧倒的ではないか我が班は。さすがレンジャーの教育を受けただけはあるというものだ……」
それでもセシリアのアドバイスが無ければ似たようなものではあったのだが。
お茶も終わると一同は少し散歩をすることにした。
散歩といっても遠くへは行かない。キャンプ地をぐるっと一周する程度だが。
「やあ、君達もテントの設営が終わったかい?」
ニコラス殿下達とアイザックの班だ。
この中でレンジャーの教育を受けてるのはアイザックだけだが……
ルーシーは少しだけニコラスを疑う、まさか一人でやらせたとかではないだろうか。
「ふ、その目は僕を疑っているね。でもルーシー、安心したまえよ。僕らは確かに貴族ではある。だが貴族だからと言って出来ないどおりはないのさ」
それに続きアベルが答える。
「ええ、殿下と我らは幼き頃より、こういう教育はよく受けておりました。もちろん実践するのは今日で初めてでしたが……」
なるほど感心。貴族でも責任ある立場、教育はしっかりしているようだ。
なぜか上から目線のルーシーであった。
「ところで今日の殿下はなんかキャラが違くないですか? なんかキモい方面に……」
言いかけてやめる。さすがに失礼だ。皇室侮辱罪で捕まってしまうのではと、思いとどまったのだ。
だが、なんとなくだが皇子のキモさの理由が分かった。
いつも俺と言ってた一人称が僕になっているのだ。
彼も大人になったという事だろう。皇子様がいつまでも俺俺言ってても余り品が良いとは言えないだろうし。
それでも僕はちょっと無いんじゃないだろうか。語尾も少し変だし。
ルーシーはのどまで出かけた言葉を飲み込む。やはり何も言うまいと。
こうして、男子4人と女子4人は合流して散歩をすることとなった。
所々に草木は生えているが、やはりここは砂漠なのだろう。地面のほとんどは石や砂であった。
石が多いので、かまどを作るのには重宝したが歩くとなると結構危ない。足元を見ながらでないと躓いてしまうからだ。
ルーシーにとってはこれくらいは平気ではあるが、一度も砂漠を訪れたことが無い都会の出身者は歩くだけでも大変だろう。
「痛っ!」
言わんこっちゃない。
リリアナが大きな石につまづき、あわや転倒してしまうところだったのをアイザックが抱きとめる。
「あぶないな。まったくリリアナはどんくさいんだから。ほら怪我は無いか?」
「あ、ありがとう、ザック。つまずいちゃった……ちょっと挫いたかも……」
「まったく、しょうがないな、ほれ見せてみろ」
リリアナは大き目の岩に腰かけると靴を脱ぎ素足を見せる。
アイザックはリリアナの足首を軽く触る。
「特に問題ないようだ、これならほっといても大丈夫だけど……、痛みがあると歩行に支障が出て怪我の元だし。一応、回復魔法を掛けとくか『ヒール』!
どうだ? まだ痛いなら先生のとこまでおぶってやるけど……」
そのやり取りを見守る一同。
「ね、ねぇルーシーさん。これってもしかして、二人は付き合ってるのかしら。私、初めて見ましたわ、……お父様とお母様以外で」
ソフィアは同級生の男女の素敵なやり取りを見てドキドキしていた。
「うーん、どうかな。ジャン君とアンナちゃんはいつもそんな感じだったから正直分かんない。この前、二人に付き合ってるの? って聞いたら二人とも慌てて否定してたし……」
「おお、我が友アイザック。流石だ、君は紳士の鑑だ。昨今の貴族達に見せてやりたいくらいだよ」
ニコラス達は平民出身であるアイザックの、実に紳士的な振る舞いにとても上機嫌だった。
「殿下、大げさですよ。リリアナは少しおっちょこちょいなところがあって、それで俺が守らなきゃって思ってるだけですから」
「ル、ルーシーさん、今のはどういうことですの? 私には分かりませんわ」
「ソフィアさんって、案外こういうの好きなんだね。……うーん。多分、アイザック君は鈍感系なのかも。ほら小説とかに出てくる面倒くさいタイプの男子っているじゃん、そんなとこじゃない?」
リリアナさんも大変だなー、とルーシーは思った。
「皆さま。そろそろ集合時間ですのでテント前に戻りましょう」
セシリアは興味なさげに言うと、足早に歩いていった。
彼女は岩だらけ地面を足元も見ずに何事もないように真っすぐ歩く。
さすがサバイバルの達人である。
セシリアの後を同じ速度で歩いていては皆転んでしまうところだ。
不格好ながらも足元をしっかり確認しながら一同はキャンプ地まで戻る。
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