第78話 キャンプ実習③
魔法学科一同はテントの設営を終えると、キャンプ地周辺に結界を張るために一度中央に集まる。
「さーて、皆さん。ここからが魔法学科ならではと言えます。
最近では魔法機械を使った魔法結界発生装置がすっかり広まってしまいましたが、昔は拠点用の結界の管理は魔法使いの仕事でした。
実は私も教員になってから知ったので、今日は私も一生徒として勉強をしようと思います。ではマーガレット先生よろしくお願いします」
マーガレット先生は大きな杖を持っていた。その杖の先端には丸い宝石がはめ込まれており、物語で見るような如何にも魔法使いの杖と言った感じだった。
「さて、これは研究室の棚で埃を被ってた古い魔法道具でね『守護の杖』という。
ここに魔力を流し込むとの魔物避けの結界を張れるのさ。マジックシールドと違って範囲は広い。この杖ならキャンプ地全体をカバーできるだろう」
守護の杖を持つマーガレット先生はその風貌もあってか良く似合う。
「ちなみに効果時間は短いからね、込める魔力によって数分から一時間がせいぜいってところさ。だから各班で夜間交代でこの杖を管理してもらう」
露骨に嫌な顔をする生徒達だがマーガレット先生は表情を変えずに言葉を続ける。
「甘えるんじゃないよ、キャンプ実習はあくまで魔法学科にとって大切な授業だよ、遊びじゃないんだ。もっとも、昔に比べればこれだって遊びみたいなもんさ。
昔のカルルク帝国では魔法使いが圧倒的に不足してね。冒険者なんて悲惨な物さ。なんせ、一晩、寝ずに魔法結界を張らなければならなかったからね」
マーガレットは昔はこうだったとか、今の子は甘えているとか、マウントを取り出したのでイレーナが中断する。
「さて、ということで今夜は昔風の魔法使いを体験してもらいます。ちなみにですが『守護の杖』を使い続けると小規模ではありますが結界魔法の習得が出来ます。せっかくですからこの機会に結界魔法も覚えておきましょう」
「まあ、イレーナ先生の言うとおり覚えておいて損はないさね、もっとも魔法使いに負担を掛けるパーティーは失格、この中で冒険者になりたいって子がいるなら覚えておくと良い。
パーティーには必ずレンジャーが必要なのさ。魔法使いの負担を減らしてくれるからね。そうだろ? アラン先生」
いつの間にやら偵察から戻ったアランが生徒たちの後ろにいた。
アランもセシリア同様に気配を断つのが上手い。
「そうっすね。付近に魔物の気配はないっす。生徒諸君、日が暮れるまでは魔法結界は必要ないっすよ。俺っちの目が利く間は安心して飯の支度でもするといいっす」
そんなこんなで生徒たちは『守護の杖』の使い方を覚えるといったん解散。
夜間の魔法結界当番も決まったので、待ちに待った夕食の支度を始める。
メニューは各班で自由なのでそれぞれが食材を持ち込んでいる。
「干し肉に、人参、玉ねぎ、ジャガイモ、小麦粉にバターに……いろんな葉っぱ」
ルーシーはカバンから材料をテーブルに広げる。彼女らの班の今晩のメニューはシチューであった。
「でも干し肉のシチューって美味しいのかな。私、干し肉って硬くて苦手で……」
「うーん、私は北方の出身ですから良く食べてましたわよ? たしかに硬いですが、噛めば噛むほど味が出て私は好きですわ、硬いのは仕方ありませんが……でも煮込めば大丈夫じゃないかしら?」
ソフィアの曖昧な返答にセシリアが素早く回答する。
「いいえ、ソフィアさん、干し肉を柔らかくするまで煮込むには一晩かかります」
さすがレストランのオーナーの娘さんだ、料理にも詳しいようだったので一同は安心だった。
それでも肉が硬いのは確定だとルーシーは少し残念な気分になる。
その時、ルーシーは閃く。
「そうだ、干し肉に『ヒール』を掛けたらどうなるかな。元の新鮮なお肉になるんじゃない?」
「え? ……ルーシーさん、さすがに生きてない物を回復って不可能ですわ、それに……仮に回復したとしても、そんな肉、ちょっと嫌ですわ」
「ふふ、ルーシーさんは面白いことをいいますね。なるほど、ゾンビ肉といったところですか」
「もう、セシリアさんまで冗談につきあって。さあ、皆もさっさと支度しますよ?」
リリアナはそう言いながら野菜を洗うために桶に水を溜めている。
「あれ? おかしいですね。水が洩れてるわけではないのですが、なかなか溜まりません……」
「リリアナさん、それはね、砂漠だからですわ。砂漠はそもそも水が少ないため、水魔法の効果も低くなってしまうのです。
さて冗談はこの辺にして皆で協力して水の準備をしましょう。ある程度溜めておけば色々と便利ですし。ルーシーさんも大丈夫よね?」
「まっかせて! この日の為に特訓したんだから。今日に限り私のことは水のドラゴンロードと呼ぶがいい!」
「うふふ。期待してますわ」
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