第76話 キャンプ実習①

 遂にキャンプ実習がはじまる。

 魔法学科一年生の40名、欠席者は1人もいない。


「うん、皆、健康。張り切っていきましょう!」


 イレーナ先生が一番元気に思えた。


 生徒たちはそれぞれだ。

 昨日、緊張のためか眠れなかったのやや元気のない生徒も居れば、イレーナのように元気いっぱいの子もいる。


「これこれ、イレーナ先生よ。お主は教員だろうて、指導する立場のお主が一番はしゃいでどうする」


 マーガレット先生も今回は参加するようだ。高齢とは言え、まだまだ現役。

 普段は何かにつけて参加を拒否していたが、今年は気分が変わったらしい。


 曰く、今年の若者は元気がよく久しぶりに外での活動も悪くないと言っていた。

 黒いローブに身を包んでいて、いかにもな老魔法使いといった感じだが背筋はピンと伸びていて若々しい。


 熟練の魔法使いであるマーガレットに比べればイレーナは生徒と大差はないのだろう。ペロっと舌を出して謝罪する姿はいたずらっ子のようだった。


「イレーナ……、お前もまだまだ子供ってことっすね。それにしてもマーガレット先生が来てくれて助かるっす。正直イレーナだけだと不安だったっすよ」


「もう、パパったら! ……こほん、いいえ、アラン先生。私が今回の主担当教員なんですから、アラン先生はあくまで補助です。いいですね?」


「了解っす。なら、いいとこ見せないとっすね」


「もちろん! では皆さん。首都ベラサグンの壁外までは馬車で行きますので、皆さんは先日決めた4名の班で順番に馬車に乗ってください」


 イレーナの指示によって順番に馬車に乗る一同。


 十台以上の馬車が学園の外に止まっている光景は壮観だった。


 小一時間ほど馬車に揺られ外壁に到着する。


 イレーナは先頭の馬車から降りると門番に通行許可証を見せる。


 事前に話は通っているのか特に検査もなく馬車は無事に門の外に出ることができた。

 このあたりは毎年の行事であるということと名門であるオリビア学園という信用のおかげだった。


 草原を街道に沿って南に向かう。


 道中には広大な牧草地帯が見えた。

 作業中の農夫が帽子を脱ぎ、大きく手を振りながら挨拶をしてくれた。


 それに答えるように馬車から生徒たちが手を振る。

 しばらくはのどかな風景が続いたが、やがて草原地帯が終わる。


 ここからは魔物の領域、カルルク砂漠だ。


 とはいえまだ砂漠の北端であるため草木はまばらだが生えている。


 地下水がある証拠である。

 必ず安全だとは言えないがまだ人間の支配領域であるため砂漠の魔物は滅多にここまでは来ない。


「じゃあみんな、ここがキャンプ地となります。御者の皆さんありがとうございます。三日後またお願いしますね」


 イレーナがそう言うと馬車の御者はそれぞれの生徒達に「頑張れよ」と元気づけると首都ベラサグンに引き返す。


 それを見送る生徒たちは途端に不安になる。


 イレーナはパンパンと手を叩くと。

「はいはい、ホームシックはまだ早いわよ! では皆さん。さっそく拠点を作りましょう。

 といっても4人用のテントの設営ですけどね。本格的な拠点は先生たちが作りますので皆さんは寝床の確保をしましょう。

 終わったら先生たちを手伝ってくれると嬉しいな。皆のテントの周りに大規模魔法結界を設置しますので勉強になるでしょう」


「んじゃ、俺っちはちょいと周囲の偵察をしてくるとしますか。小一時間で戻るっす」


 アランはそう言うとすぐに姿を消した。 


 ルーシー達は早速、テントを受け取ると仕事にかかる。


「ふっふっふ、一月前の私ではない。レンジャー教育で得た技術を今こそ披露するとき!」


 腰に両手を当てて、胸を張りながらルーシーは宣言する。

 そう、今までの彼女ではない。ロープワークもアランから及第点をもらえたのだ。


「ええ、ルーシーさん。リリアナさん。同じレンジャー教育を受けた者同士。ここは私達の実力を見せつけてやりますわよ!」


 リリアナも何か気合の入った一言を言おうとした瞬間。

 既にセシリアはもくもくとテントの設営を始めていた。

 しかも随分と手慣れている。


「あれ? セシリアさんって、レンジャー教育受けてたっけ?」


「いいえ、たしか受けてないはずですわ。まさか気配を消してずっと参加していたとか?」


「そこ、また私の影が薄いと言ってる。さすがに認知されてる人を前で気配を消すとか無理」


 そう言ってる間にもテントの設営は進む。


「ちょっと! セシリアさん一人で終わらせないでよ。っていうかなんでそんなに上手なの?」


「ふっ、私は物心ついた頃からサバイバルの訓練はしている。つまりベテラン」


 小さくブイサインをするセシリア。


「なるほど、それは凄いですわね。本当に終わってしまいそうですわ。……あの、お願いですから一緒にやりましょうよ、これも授業なんですから、ルーシーさんが悔しそうに震えてらっしゃいます……」


 こうして、一度セシリアによって設営されかけたテントは分解され、今度は皆で手分けして設営する事となった。


 レンジャー三人組は逆に足手まといになりながらも、セシリアのアドバイスで無事に完成させることができたのだった。

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