第53話 闇の魔法に対する防衛術
どうやら『闇の魔法に対する防衛術』の授業の教室は学園の地下にあるようだった。
ルーシーとソフィアは階段を降り、地図に記載されている教室のある場所まで来た。
地下に教室というのに少し違和感を覚えたが、そう書いてあるのでそうなのだろう。
そして目的地に着く。
教室の入り口にはこう書かれていた。
古代魔法研究室。担当教員マーガレット・シャドウウィンド教授。
教室ではなかった。
「あれ? 古代魔法研究室? 場所を間違えたのかしら」
ソフィアはもう一度シラバスを確認する。
どうやら間違いないようだった。
軽くノックをすると中から声が聞こえた。
「……入っといで」
緊張しながらも扉を開く。
部屋の中央には応接用のソファとテーブル。
両サイドの壁際には棚があり、その上には様々な魔法道具と思われる古い物品がずらっと並んでいた。
ルーシーがきょろきょろと周りを見回していると、ソフィアは一歩前に進み、スカートを両手でつまみ、膝を少し曲げお辞儀をした。
「シャドウウィンド教授。私達、選択必修の科目、闇の魔法に対する防衛術を受けるため来ましたが、ここでよろしかったでしょうか?」
書類仕事をしていたのか教授はペンを机に置き。メガネを外すとこちらに顔を向けた。
マーガレット・シャドウウィンド教授の外見は白髪で皺だらけの顔であった。
所謂、おばあちゃん先生であったが、それでも目の光はまだまだ現役と言わんばかりにキラキラと輝いている。
「ああ、そうだったね、もうそんな時間かね。さてと、今年の一年生はお嬢ちゃん二人だけかね……。
人気が無いのはしょうがないが、今年は新記録かな? ……ニコラス殿下は来ると思っていたのだがね」
ソフィアとて、さすがに二人しか履修していない不人気な授業だとは思わなかった。
だが、ニコラスに関しては事情が違う。
「それですが、殿下は今日は欠席でして。でもシャドウウィンド教授はニコラス殿下とはお知り合いだったんですか?」
「あら、欠席なのかい? なら、まだ来てくれるかもだね。
そうさね、殿下とは趣味があってね、殿下は魔法道具屋の常連なのさ。そこで良く話をするよ。趣味友達と言ったところか。
殿下は、今となっては利用価値のない古代の魔法道具に関しても、若いのに良く調べている。だから彼は入学したらここに来ると思ってたんだが。少し残念だね。
……さてと、学生は二人か、どうしたものかな。
まあ、二人とも今日は初日だし、自己紹介も兼ねて、お茶でもしようじゃないか。あと、私のことはマーガレットと呼んでくれ、私は自分の姓があまり好きではない」
そういうと彼女は棚からティーセットを取り出す。古い魔法道具だろうか、不思議なデザインのティーポットに魔法で水を注ぐ。
あっという間にお湯が沸く。お茶を沸かすだけの魔法道具である。
「こういうレトロなアイテムが私は好きなのさ。さてと、お嬢さん方。さっそくだが、なぜ闇の魔法の授業を受けたいんだい? 外で使ったら逮捕されるぞ? 意味のない学問だし、実際このとおり閑古鳥だ」
ルーシーとソフィアは互いに顔を見合わせ、頷きながら返事をした。
「それはもちろん、このソフィア・レーヴァテインは闇の深淵を覗きたいからです!」
「同じく、ルーシー・バンデルは闇と呪いの魔法使いになるためです!」
マーガレット先生は一瞬きょとんとしたが、直ぐに大声で笑った。
「はっはっは。そうかそうか、お主たちもそうか。面白い。
実は私もな。闇と呪い、これらの深淵を覗きたくてな、この学問を探求しておるのだ。
よし、では今日は軽く、この研究室にあるヤバめの魔法道具をいくつか見せてやろう。
もちろん触ったりすることは許さん、何が起きるか分からん代物ばかりだしな。
例えばあそこにある首飾りは【奴隷の首輪】と言ってな、一度はめてしまったら術者以外に外すことはできない、恐ろしい呪いのアイテムであった。
まあ、先代のオリビア陛下の時代に廃止されたから、再び生産されることはないだろう。だが、今ではあれも古美術品としてはそれなりに価値がある」
ルーシーは圧倒されっぱなしだった。そして楽しかった。オリビア学園はグプタでは一生知ることができない知識で溢れていたのだ。
だから今日欠席したニコラス殿下に申し訳なく思った。
帰り道にて。
「ねえ、ソフィアさん。殿下のお家にいってみない? 私が嫌いみたいだけど、私だって初級魔法を使えるようになった。
私が気に入らないのは魔法が使えない事でしょ? でも今は違うし、お話すれば殿下は戻ってくるかもしれない。マーガレット先生の話では殿下は悪い人ではなさそうだし。
それに、せっかく趣味が合うんだったら、ぜひ闇の魔法の授業に参加してもらわなきゃ」
「あら、そうかしら? 殿下が怒ってたのは別の理由に思えるけど。……まあ、殿下の邸宅は知ってるし。
私としても殿下には今までの誹謗中傷をルーシーさんに謝罪してもらわなきゃって思ってたから、ちょうど良いわね、一緒に行きましょう」
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