第33話 カルルクへの旅②
「お嬢。よく眠れたっすか?」
「アランおじさん。ふぁーあ。よく眠れました。昨日までご迷惑おかけしました。……それにイレーナさんには随分と粗相を……」
船でのルーシーは酷かった。船酔いゆえに致し方なかったとはいえ自責の念はある。
素直に謝るルーシーにイレーナは明るく迎える。
「いいえ、旅の仲間を助けるのは冒険者の基本ですから。それにルーシーちゃんがすっかり回復してお姉さんはうれしいですっ!」
「おいおい、イレーナ。いつから姉貴分になったっすか。この方は俺っちにとって……」
「はいはい、分かってますって。私が物心つく頃から聞きました。でも私とルーシーちゃんとの関係はこれからです。パパとクロード様との友好関係とは別ですーっ!」
「……まあ、それもそうっすね。では、お嬢。これからカルルク帝国との国境の外壁まで向かいましょうや。高速馬車は乗ったことがありやすね?」
高速馬車。忘れるわけもない。二年前に乗った、馬の代わりに魔法機械が引く馬車だ。
「ええ。もっちろん。一回だけだけど。それは大丈夫よ、乗り心地はよかったから今度は吐かないわ。……たぶん。船旅で自身無くしちゃったかも……」
高速馬車に乗ること一時間。2年前に見た巨大な外壁の前に到着した。
船と違い上下の動きがない高速馬車は快適だった。
馬車を降りると目の前には巨大な壁。
ルーシーとて身長は延びたが、この外壁は相変わらずの大きさだ。見上げる壁。この街を魔物から守っている、圧倒的な信頼感というか頼もしさを感じた。
「じゃあ、お嬢にイレーナ。ここでカルルク砂漠の縦断用に専用の高速馬車をレンタルしてくるっす。
二人はここで休憩してもいいっすが……お嬢の顔から察するに興味がおありっすね。ではついてくるっす」
ルーシーとしては高速馬車に興味が無い訳ない。魔法機械を使った大陸縦断用の馬車である。
まだ数は少なくコストも高いため物流は未だにラクダなどの動物による運搬が主である。
だがそれも時間の問題だろう。いずれ魔法機械は時代を変えるであろうことは誰もが知っている。
アランはカルルクの外交官が住む大使館にやってきた。
「おーい、いるっすかー。高速馬車を借りに来たっすよー」
「パパ、大使館の前でそんなこと言っても。警備の人も困ってます。明らかに不審者ですって。ただでさえパパの顔は誤解を招くというのに……」
だが、警備の人が大使館に連絡をすると。一人の男性が出てきた。随分と若い男性だ。エリートなのだろう。
「アランさん。お待ちしておりました。ご所望の最新の高速馬車のテスト、感謝いたします。これでルカ様の評価が上がることを期待しております」
「パパ。まさか。試験機でルーシーちゃんを運ぶのですか?」
「おう、イレーナよ。そのとおりっす。でも安心っすよ? 試験機は試作機じゃないっす。量産前の最終試験機っす。
これで問題が出れば設計段階でだめだったってことっすよ。あのルカ・レスレクシオンが作ったでやんすから大丈夫っす。たぶん」
「パパ……。たぶん、が無ければ良かったんですけど。ルーシーちゃんはどう思う?」
「うーん、ルカさんが設計したなら問題ないと思うし、むしろ最適なんじゃない? でもアランおじさんってルカさんと顔見知りだったんだ」
「お嬢。それは企業秘密っすが。……まあ団長と姫様とベアトリクス様がごり押ししてくれたってのが真実ですがね、それにこの機体は特別仕様で、おっと、お嬢には秘密でやんした。他言無用でやんすよ?」
そういうことか、なら安心してこの高速馬車に乗れる。ルーシーは早くも故郷の両親に思いを馳せるのだった。
「私はまだ子供なのだ! いつかお父様やお母様、そしてついでにベアトリクスに恩返しするんだ。待ってなさい!」
ルーシーは両親と故郷に感謝する。なにも怖くない。堂々とカルルク帝国へ行くのだと。
「まあ、お嬢。普通の日程よりもカルルクの首都には早く着きますが。それでも大変なんですぜ? とりあえず今日は一日かけて最初のオアシス都市パミールに向かうとしましょうや」
この時、ルーシーは砂漠を縦断するという過酷さを舐めていた。
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