第32話 カルルクへの旅①

「オロロロロー。うっ、うえええ。ごふ。うえ。うっぷ」


 船の甲板から海に顔を突き出しながら。全ての不快感を吐き出すルーシー。

 背中をさするイレーナは果実水を取りにいったん客室に戻る。


「イレーナ。お嬢は大丈夫っすか?」


「はい、ただの船酔いですね。全て吐いたと思いますので。今は中央の甲板で休んでもらっています。揺れは多少はマシだと思いますで……

 しかし、ルーシー様は船に慣れてると言ってましたが……レスレクシオン号に一回だけ乗ったとのことでした」


「ああ、なるほどね。それじゃあ素人っすね。アレは船じゃない。どっちかと言えばホテルっす。船旅の経験にはならんよ。

 ……ふぅ、イレーナ。初日から苦労をかけるっす。俺っちがお嬢に寄り添うのは無理っす、見た目的に不味いっすから……」


「パパ……。正直言って。私とパパが一緒にいても不審者扱いですからね。それはいたし方ありませんか。

 でも、初日からルーシーちゃんと仲良くなれそうで私としては苦労とは思ってません。むしろ願ったりかなったりです」


「そうっすね、お前は俺っちに顔が似なくって本当によかったっす。それだけが父としての誇りっす」


「もう! パパったら。顔以外は完璧なんだし。もっと自身持ってよ!」


「そうはいってもな……顔は良い、性格も良い。こんな出来た娘を持って俺っちは幸せものっす。いつ死んでもいいっす」


「もう……大げさなんだから。でもパパには感謝してる。パパのおかげで私は冒険者として世界中を歩けるんだから。

 それにパパのレンジャーとしての才能も受けつぐ事が出来た。私こそ感謝してるわ」


『オロロロロー!』


「いかん! イレーナ。お嬢の介抱をたのんだぜ。俺っちは酔い止めの薬がないか医務室に行ってくるっす」


「わかりました。パパ。では!」


 こうして、ルーシーにとっての旅は最悪なスタートをきったのだった。



 ◇◇◇◇◇


 西グプタの港。



「お嬢、大丈夫でやんすか? 少し休憩しましょうか?」


「う、うん。アランおじさん。う、気持ち悪いです。休憩をしたいです」


「了解っすよ。宿は取ってあるっす。ではお嬢、少し馬車に揺られるっすが我慢を……」


「パパ! 船酔いの人を直ぐに馬車に乗せるのは良くありません。それにここはリゾート地ですよ?」


「ああ、そうだったっす。ではお嬢、ビーチで少し横になりましょうや。最近では氷菓子とかあるらしいっす」


「あ、パパ。それよ。ルーシーちゃんにも食べてほしい西グプタのスイーツがあるのよ。氷でキンキンにした果物とか、あとは……」


 アランとイレーナはルーシーを連れて西グプタのビーチに訪れた。


 そこには香ばしい匂いがただよっている。肉の脂が炭火に滴る香ばしい匂い。

 そう、肉の焼ける匂いだ。


 ルーシーの胃袋は反転した。船旅ではいかなる料理も拒絶していた胃袋が今、香ばしく焼ける肉を求めて反転したのだ。


 ルーシーのお腹はぐぎゅー、と大きな音を立てる。

「アランおじさん。イレーナさん。私は正気に戻りました。いま、あの屋台のお肉を食べないといけない! 魂がそう言っています!」


 アランとイレーナは互いに見合す。

「おし、じゃあ、今日はお嬢の復活祝いに屋台の肉を食べ歩きするっす」

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