第29話 西グプタ②
「うーん、どのお店もあれだよねー、東グプタとそんなに変らないねー」
一通り商店街を回った感想である。
売っている物が東グプタでも手に入るため。正直、興覚めだった。
だからルーシー達は割高な西グプタ産を強調したネクタイや髪飾りを購入した。
父と母の為に。だがこれを身に着けてはくれないだろう。ダサいのだ。
それでも旅のお土産は大事だと言い聞かせて。
「俺達グプタの出身じゃあ特に珍しいもんなんてないよなー、武器屋に入ったら嫌そうな顔されるし。まあ、たしかに俺達はお客じゃないからなそうなるよな、あとは……冒険者ギルドってのはどの辺にあるんだ?」
「ふふふ、ジャン様は冒険者になりたいのですか? ですが、まだ年若い子供ではいろいろ大変ですよ?」
「あ、あの、俺に様づけはやめてくださいよ。セバスティアーナさんは俺のメイドって訳でも……」
セバスティアーナに様付けで呼ばれ真っ赤になるジャン。
「もー、ジャン君ったらエッチなんだから、俺のメイドとか何考えてんのよー」
「ち、違う。っていうかなんでメイドさんがエッチなんだよ! アンナこそ変な小説ばかり読んで知識がアレなんじゃないか?。あ、そういえばこないだ読んでたのは『地獄の女監獄長』だったよな。どうせあれもエッチなんだろ!」
「さーねー、違うよー。文学作品だよー。ジャン君ももっと本を読んだ方がいいかもねー、そういえばルーシーちゃんはなんであの本のタイトルを知ってたのー?」
「それはアンナちゃんが読んでたからで。なんだっけ。ハインド君は、古いぽるの? とか言ってた。古いってことは文学なんじゃない? ジャン君はエロガキなだけでしょ? 俺のメイドさん? きもーい」
「うふふ、メイドといっても私はずっとルカ様専属ですので男性のご主人様の経験はございません。たしかにそういう目的でメイドを雇う男性もいるのは間違いないのですが。さて、これからどうしましょう?」
セバスティアーナは話題を変える。子供たちの教育によくないと思ったのだ。
少なくとも『地獄の女監獄長』はエフタルが王国だった頃には有害図書指定の作品ではあった。その評価ゆえに逆に闇で広まったのは皮肉ではある。
「うーん、冒険者ギルドも俺達じゃ追い出されそうだな。俺達が、見学でーす、って言ったって迷惑だろうし……かといってリゾート地は東グプタと似たようなもんだし」
「でしたら皆さまどうでしょうか? この西グプタは港町ですが直ぐ隣は砂漠です。今から行けばカルルク帝国の国境の外壁は見れると思います。そこなら砂漠の風景が見られるのでお勧めですよ?」
「さすがです! 俺もカルルクの砂漠は一回見てみたかったんだ。皆はどうだ?」
ルーシーも同感だ。砂漠というのを見たことがないし興味はある。
「うーむ、いいんじゃない? 正直、西も東も商店は一緒だったし、なら辺境を見るのも一興なのだ! 人生は冒険だ!」
「お、ルーシー良い事言うじゃないか。で、セバスティアーナさん、国境って結構遠いですよね。どうするんですか?」
「はい、高速馬車を使いましょう。それならば最西端である、外壁を一時間ほどですが存分に見学できるでしょう」
高速馬車、荷車を引くのは馬ではない。魔法機械の一種でルカの魔法機械を参考にして作られた交通機関だ。
馬を模した魔法機械で休憩なしに最速で目的地まで行くことが出来る。
これが使われているのは現在ではカルルク帝国と西グプタのみである。東グプタは斜面が多く道幅も狭いため導入は見送られている。
改善と改良しだいでいずれは東グプタにも導入されるだろう。
揺れの少ない快適な馬車に乗ること一時間。
目の前には巨大な石の壁があった。付近にある二階建ての建物の三倍の高さはある街の外壁。
これが西グプタを外敵から守り独立都市でいられる象徴。その外観は圧倒的だった。
もっともカルルク帝国とは戦争をしているわけではないが、広大な砂漠が広がるカルルクの領土には魔物がいる、その防衛の為にこの巨大な外壁が築かれたのだ。
「すっごーい、おっきな壁だねー。レスレクシオン号よりも大きいんじゃない?」
「おう、俺もそう思う、すげーよな。これはずっと昔に作られたんだぜ。地道に石を積み上げてだ、俺達職人の誇りなんだよ」
「皆さま、城壁の上に登れる許可を得ましたので頂上まで行きましょうか」
外壁を管理する門番さんに案内され階段を上る。
そこは絶景だった。子供たちは東グプタの生まれで外国を知らない。
目の前には何もない岩石と砂だけの砂漠が地平線の彼方まで広がっていたのだ。
海風とは違った乾いた砂の混じった風が頬を撫でる。初めて見た別世界に圧倒されるのみだった。
ルーシーは決意した。いずれ魔法使いになるためにこの砂漠の向こう側にあるカルルクの学校に通う事を。
第二章完。
-----あとがき-----
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回は豪華クルーズ船旅行のお話でした。
ルーシーはいよいよ魔法学校への進学を決意します。
闇の魔法使いとして彼女はどうなるのか。
今後も応援よろしくお願いします。
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