第2話 ジャングルの入口

 ここに来たのは一ヶ月前のことだ。

 

 ジャングルの中を人里を求めて彷徨っていた。自分が立っている土地がどこの国のものなのか、そもそも何かしらの文明に属しているのかすらわからず、仕舞いには持ってきた方位磁針がまるで使い物にならない。

 一緒に故郷を出てきた連れに乗り物を奪われたので、足元の覚束ないなかをふらふらになりながら、それでも歩き続けることがこの状況を打開する唯一の道だった。連れの男は元は運び屋の囚人で、脱獄と引き換えに家出の手伝いを引き受けてくれたが、最初の目的地であるこのジャングルでの最初の夜に裏切られ、乗り物に積んでいた食料や日用品や資金を丸ごと掻っ攫って消えてしまった。翌朝気付くと自分が肌身離さず持っていたバックパックと着の身着のままの自分だけが焚き火のそばに取り残されていた。バックパックは荒らされた形跡はあったものの何も盗られておらず、心ばかりの情けを感じて消えた相手を罵る気にはなれなかった。僅かに残された食料はとっくに底を付き、見ず知らずの樹の実をとりあえず腹に押し込んでいたため、ついには意識が朦朧としてきて、記憶が一旦途切れた。

 

 次に目を覚ますと、頭のてっぺんから足の先までびしょ濡れで、草むらの中に倒れていた。背後で水流の音がして、倒れた時に川に落ちたのだと気付く。どれくらい流されていたのかは分からない。相変わらず鬱蒼としたジャングルの中ではあったが、植生が先程とは違う気がする。

 まだ頭がぼんやりとしているが、あたりが暗くなる前に少しでも進んでおこうと、川沿いに下流へ向かって歩を進めた。

 

 意識がはっきりとしないこともあるが、地平線はおろか地面の土がろくに見えないので自分がどのくらいの距離を進んだのか、数メートル先に何があるのか、全く判らない。

 ひとりぼっちで、通信機も方向を示すものもないまま私は、孤独感と心細さに押しつぶされ、目的を果たせる希望を見失い始めていた。

 

 辺りが真っ暗になる頃には足が動かなくなり、家を出て2日目にして、小旅行のつもりでこの冒険に乗り出したことを後悔しかけていた。

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