第18話 空の色

 あばらの痛みも嘘みたいに引いたので、エンについて店を出た。辺りはもう暗くなっていて、赤黒く染まった空をなんとなく見上げてみる。



「空、血みたいだね」




あれ?



「僕らのは青いよ」


「…ああ、そうだったかもな」



ロコはエンのことを最古参だって言ってた。現実世界の空の色を思い出せないくらいスロータイムズタウンでの生活が長いのかな。

 ふと気になって店を振り返る。男たちは酔い潰れ、彼女は一人でカウンターに向かっている。その背中は、なんだか泣いているように見えた。

 建物と建物の間をひたすらエンの背中について進んで行く。しばらくすると故障車やタイヤのストックなどが無造作に積みあがっている、そこそこ開けているけどガラクタばかりの空間に出た。



「ここが俺たちのアジト」



暗闇に慣れてきた目で辺りを見回すと、洗濯物が張られた縄に吊るされていて、タイヤは連結され筒状のハンモックのようにぶら下がっていた。故障車もよく見ればかなりリメイクされていて、中を覗くとちょっとした部屋のようになっていた。

 アジトと言うだけあって、生活感満載だ。こういうところは嫌いじゃない。



「いいね」


「だろ?」



一通り見回して、エンに向き直る。



「僕を仲間にしてくれてありがとう」


「き、気色わりいな。やめろよ」



照れ隠しするエンを見ていると、彼の新たな一面が見られたようで嬉しくなる。

 人と関係を築く感覚が久々で、友達と呼べる人がいることが楽しくて何だかにやけてしまう。

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