第14話 合格

 目が覚めると朧げな視界の中で金髪が僕の顔を覗き込んでいた。何か言っているけど上手く聞き取れない。ヘリコプターのローター音のような低音が慢性的に聞こえて、頭がぼうっとする。臓腑がどうにかなったのか、吐き気がして気持ちが悪い。

 段々と金髪の声が鮮明になってきた。



「い…おい、大丈夫か。俺の声聞こえねえのか、なあ返事しろよ」


「生きてはいるみたい」


「あいつらどうやって追い払うつもりなのか遠巻きに見てたら爆破したから驚いたぜ。まさか自分を犠牲にするとはな」


「あの…ッ」



尋ねようとすると、腹に挿し込むような激痛が走った。



「無理にしゃべるな。多分肋あばらが折れてるから下手に動くと内臓に刺さるぞ」


「あの人達は無事?」



彼に上体を起こしてもらうと、辺りに伸びきった男たちが気を失って倒れていた。



「よかった、死んでなくて」


「頭打ったのか?。あいつらに殺されそうだったこと忘れたのかよ」


「ちゃんと覚えてるよ」


「だったらあんなやつらどうだっていいだろ」


「誰も傷つけちゃだめなんだ。僕が上手い距離で爆破すれば、彼らは爆風で身動きが取れなくなるくらいで怪我はしないでしょ?」


「…変わってるな、お前」



立ち上がろうにも体のあちこちが痛んで踏ん張れない。それを見かねた彼が僕の腕を肩に回して、力の入らない体を支えてくれた。歩調もよたつく僕に合わせてくれる。



「合格だわ」


「何か言った?」


「いや、実は俺お前と同じプレイヤーなのよ。嘘ついてて悪かったな」


「それじゃあディーラーのエゴイストさんの弟だっていうのも嘘?」


「嘘つかれてたって知って最初に確認するのそこか?」



だって似てないもん。そう主張すると、彼も「だよな」と笑った。



「無理な設定だったよな、あれは」


「じゃあ彼とは仲間なんだね」


「そういうこと」



 彼はスロータイムズタウンに来てから一人で出来ることには限界があると判断し、早々に信頼出来る住人との関係を築いていったそうだ。仲間として信頼出来そうなプレイヤーをずっと探していたけれど、交渉にまでは至っても結局意見が割れて決裂し、戦闘という結果に終わったと言う。



「最近はめっきり諦めて、変装して見た目を変えながら住人のフリしてプレイヤーに近づいてた」



笑って自らの髪を掴む。



「だからこの金髪も嘘」



取り払われた金髪の下に赤茶のくせ毛が覗く。



「ほれ、ピアスも全部ダミー」



輝く金属をバラバラと外すのを見ていると、笑いがこみ上げて来た。そんな僕を見てか、彼もつられるように笑った。



「ねえ」


「ん?」


「カジノから出る時ディーラーのエゴイストさんが君のことエンって呼んでたけど、君のコードネーム?」


「ああそれはニックネーム。本当はエントゥジアズモっていうんだ。舌噛みそうで呼びにくいだろ?、エンでいいよ。お前は?」


「ミンストレル」


「んじゃよろしくな、ミンストレル」


「こちらこそよろしくね」



 こうして僕にはひとり、仲間だ出来た。

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