第12話 勝利
カジノの外にまで人だかりが出来ているようで、場は熱気でかなり暑かった。みんな勝敗が決まる瞬間を息を呑み待っているからか、場は静まり返りボールの転がる子気味いい音しかしない。
「ノーモアベット」
ルーレットのスピードが少しずつ減速していく。不利な状況なのにさらに命を賭けるなんて、ここに居る誰もが僕のことを愚かだと思っているだろう。
勝てたらそりゃあ嬉しいけど、別に死んでも構わないとどこかで諦めている部分もあった。どっちに転んだとしても構わないという安心感と脱力感からか、どこかこの戦況を他人事のように俯瞰している自分がいた。
ルーレットが止まり、ディーラーから息を呑む僅かな声が聞こえた。指と指の間にピックを挟みそっと置いたのは――
「ボールは0に止まりました。よってこの勝負、新人プレイヤー様の勝利となります」
男の賭けたチップを持ってその場からディーラーが離れると、黙っていた野次馬たちが一斉に大きな声を上げた。意外と僕に賭けていた人も多かったようで、場は歓喜と嘆きの半々で、店内は大盛り上がりだった。
「すげえなお前、最強の運の持ち主だぜ」
肩越しにゲームを観ていた金髪も、抱きついてきてもみくちゃにされる。最初に話しかけられた時と大分雰囲気が変わっていて戸惑っていると、ディーラーさんが颯爽と戻って来た。
彼から勝った分のチップが換金された現金を渡される。男は咥えていた葉巻を賭け台で潰しながら、苦虫を噛み潰したような表情で言った。
「受け取れ。にいちゃんの勝ちだよ」
ディーラーは僕の前で現金を数えて見せると、手品のようにその現金の束を一枚のカードに変えた。
不意に目の前でささやかなマジックに見惚れていると、耳元で囁かれた。
「新人プレイヤー様の荷物になるかと思ったので、カードにしておきました。どの店でも使えるのでご安心を」
「心遣いありがとう」
もしこの人がプレイヤーだった場合、騙されている可能性もある。でも、彼はニトロに似た人間らしくない異様な雰囲気を放っているから恐らくこの世界の住人だ。きっと信用しても大丈夫だろう。
「大変なのはここからですよ。あの男があなたを勝たせたままにするわけがありませんから」
彼は金髪とアイコンタクトを交わすと、金髪はそれに頷いて僕の腕を掴んだ。
「逃げるぞ」
「エン、後のことは頼みます」
「ああ」
金髪に連れられ、野次馬たちをかきわけて店の外へ駆ける。
「前世でどんな善行したらあんな豪運が味方するんだ?、最高だったぜ」
「あの野郎ずっと気に食わなかったんだ。ぎゃふんと言わせてやったにいちゃんよ、今度は俺と勝負してくれねえか」
「新人に賭けてみるのも悪かねえな。今日は朝まで飲み明かすぞ」
すれ違う人に肩を掴まれて足止めを食らいながらも確実に出口へと近づいている。ふと振り返るとほんの一瞬だったけど、僕らを見送るディーラーの目が微笑んでいるように見えた。
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