第11話 0

 圧倒的に押されていた。ベット出来るチップも少なくなり、手元に残っているのはあと一枚だけ。



「どうしたにいちゃん。今までここに来た他所の人の中じゃダントツで弱いんじゃねえか?」



言い返す言葉もない。



「おいディーラー」


「何でしょう」


「このにいちゃんに個人的なチャンスをやりたいんだが」


「というと」


「このにいちゃんが残りのワンチップをストレートアップで賭けて当たったら、ここにある俺のチップ全部やるよ」


「ほう」


「当たらなかったら、にいちゃんの命をいただく。最近手が鈍っちまってるからな」



そんなことを言ってのける奴と僕の周りには、いつの間にか沢山の野次馬が集まっていた。

 その中にはさっきの金髪もいる。



「このままじゃにいちゃんは絶対に勝てないぞ。スリルのねえ勝負はつまらない。どうだ、悪くねえ話だろ」



ディーラーの彼も、僕の答えを戸惑った風でもなくただ待っている。さあどうするとでも言わんばかりの冷ややかな顔で見下ろして来る。

 このままだと勝算がない。負けたら当然お金は得られないし、お金をくれた金髪に何をされるかわかったものではない。だけど奴の話に乗れば賞賛が僅かだけど見えてくる。

 それに僕がここで死んだところで…



「その話乗らせてもらいます」


「聞いたかディーラー」


「ええ、では次のターンからはお二人の一騎打ちということでよろしいですね?」


「はい」


「ああ」



お互い外れた場合はどうするかと尋ねられ、僕は奴と顔を見合わせる。



「決着がつくまで続ける。いいよな?」


「はい。それで構いません」



 最後のルーレットが回る。勝率は三十八分の一。

 奴はストレートアップで手持ちのチップで出来たタワーを早々に37へ移動させた。



「お、お前がいざって時に賭ける数字じゃねえか」


「こういう時のあんたは強いからな」


「俺は貴様に賭ける」


「悪いがにいちゃん俺もだ。俺もこいつに賭けさせてもらう」



 どうやら野次馬たちの間でも奴が勝つか僕が勝つか賭けを始めたらしい。不思議と焦燥感はなく、リラックスしながら数字を眺めている自分がいた。

 僕はまだスロータイムズタウンのことを何も知らない、ゼロからのスタート。安直だと思われるかもしれないけれど、こういう直感は大事にした方がいい気がする。

 チップを0と書かれた場所へ置く。

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