第10話 ルール説明
「チップをお好みでこのテーブルに書かれた数字、あるいは色にお賭けください。私がルーレットを回した後もチップの移動は可能です。勿論増やしたり、減らしたりしても構いません。私がノーモアベットと言いましたら、もうチップは動かせません。ボールが止まった数字に賭けていた方が勝者となります」
チップがなくなったら負け、という感じなのかな。
「プレイヤーの方がいる場合にのみ追加ルールとして、ストレートアップとカラーだけでゲームを進行します。よろしいですね?」
彼は常連たちに鋭い視線を向ける。その視線から逃れるように目を逸らし、不機嫌そうに床に唾を吐いた。
奴らは不服そうに僕を見て、いくつか愚痴をこぼした。
「わかっているとは思いますが、イカサマは無論、ゲームの妨害行為が認められた場合罰金が課されます。プレイヤーへの過度な嫌がらせもその対象になりますので、ご注意ください。私も面倒事は嫌いですので、そのような行動は慎んでください」
気まずい空気の中、思い切って彼に疑問点を聞いてみた。
「あ、あの」
「何か」
「ストレートアップ、カラーって何ですか」
大人しく座っていた常連の男たちがケラケラと嗤う。
「ストレートアップは一か所に賭けることです。カラーは赤黒または0の緑といった色全体に賭けることです。今の説明でご理解いただけたでしょうか」
「はい、ありがとうございますディーラーさん」
「ぷっ」
今度は耳が痛くなるほどのが鳴り声で嗤う常連たち。
「ディーラーさんだってよぉ、涙が出るぜ」
「笑わせんなよ」
「にいちゃんおもしれえなぁ」
明らかに馬鹿にされている。憤りを感じるけれど、僕は初心者で勝手がわからないから仕方ない。それよりも、僕にルールの説明が必要なせいでゲームがなかなか始まらないことに苛立っているのだろう。申し訳ないな。
「私のことをどう呼ぼうが自由。少しは静かにしていただけますか、下品な笑い声が癪に触って仕方ない」
賭け台であるテーブルに拳を振り下ろしたディーラーの彼は、尚表情を変えないまま。
彼の言葉によって、常連たちはつまらなさそうに煙草をふかし始めた。
なぜだろう、体格だけを見ても常連たちの方が彼を上回っている。細身の彼にそんな風に言われたらすぐに揉め事を起こし、いかにも殴り合いで勝算があると考えそうなものなのに。
よっぽどディーラーさんが怖いか、単に罰金を恐れているのか。
「気を取り直しまして、ゲームを開始します。私ディーラーのエゴイストと申します。よろしくお願い致します」
彼の手によってルーレットが回され、銀色に鈍く輝くボールが細長い指の先で弾かれた。
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