第8話 他所の人

 DJクラブやカジノ、他にもバーなど沢山の店が並んでいる。ネオン街はいかにも危険そうな感じがしたけれど、これまで一度も見かけなかったここの世界の住人が行きかっていた。



「すみません」


「なんだい」


「動きやすい服が売っている店を知りませんか。今すぐ着替えたくてネオン街まで足を運んでみたのですが」



勇気を出して話しかけた住人と思われる人は、僕のことを上から下までまじまじと見てから不思議そうに首を傾げた。



「もう身軽そうな格好をしているようにみえるが…。また他所の人をニトロは連れて来たんだね」



そう言われ、何のことかと自分の格好を見て驚いた。いつの間にか服装が変わっている。白いシャツにセピア色のチェック柄のベスト、果たしてこれが身軽な格好の部類に入るのだろうか。



「変な子だね。まあいい、怪我をしたら俺んとこに来い。軽傷なら治療してあげられるから」


「あ、ありがとうございます」



 この世界に入ると自動的に服装も変わるのか。服を買う手間が省けたし、知り合いも出来て心強いけれど大事なことを失念していた。



「そうだ、お金」



持っていた荷物はニトロに没収されたみたいだし、持っていたとしても現実世界のお金をここで使えるとは思えない。

 服の問題は解決した。けど、今度は金銭面の問題が出てきた。今日帰れる…というわけではなさそうだし長期滞在を考慮すると、どこかで働かせてもらわないと食べていけない。

 ピンク色や黄色、オレンジや緑色のライトがチカチカと点滅する店々。そろそろ目が疲れてきた。

 住人の行き来も減って、随分と雰囲気の悪いエリアのようだ。この道を抜けた先に飲食店がいくつかあるようだし、求人募集をしていないか確かめたい。この道が近道だからここを選んで来ちゃったけど、今からでも迂回した方がいいかな。

 それにしてもネオン街で特に目立つのがDJクラブ。建物を見上げると、太陽光が眩しくてくしゃみが出る。もう一度改めて見上げ、黒髪のプレイヤーがいないことを確認する。



「よ、にいちゃん」



いきなり肩に腕を回してきてなんだか馴れ馴れしい。長身に金髪で、それだけなら別に何とも思わないけど、とにかく慣れ慣れしい。

 だけど嫌な顔はしないようにしなくちゃ、既に絡まれてる気もするけど、下手に揉め事を起こしたくない。それにこの人が悪い人であってもいい人であっても、人に嫌な顔をされたら傷つくだろう。



「他所の人?」



さっきのお医者さんらしき人も僕のことをと呼んでいた。もしかするとこの世界の住人は、プレイヤーのことを他所の人と呼んでいるのかもしれない。

 だとすれば、この人も住人なのか。



「ま、まあ」



彼の耳でジャラジャラと光るピアスたちに少しビビる。



「俺はそこのカジノの人間なんだけど、他所の人がうろついてたらスロータイムズタウンでの手っ取り早い金の稼ぎ方を教えてやってくれって、ゲームマスターのニトロさんに言われてんだ」



本当だろうか。

 でも、ニトロは金銭面について何も説明をしなかった。この人にそこらへんのことを任せている可能性もなくはない。

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