第6話 ゴーストフォレストに住まう少女
* * * * *
ゴーストフォレスト。
昼間でも何故か全く光が差し込まない不気味な森を、誰もがそう呼び気味悪がって足を踏み入れることはなかった。
ミンストレルのことも気がかりだけれど、今のところは様子見で問題ないだろう。今はそれよりも――
「僕だよ」
大きな扉に向かって声を張る。しかし、反応はない。
黒手袋を外して扉を押すと、ギイっと厳かな音を立ててゆっくりと開いた。
ゴーストフォレストの最奥隅に位置する屋敷。一見、城のようにも見える。屋敷の中にも無論日光は届かず、日中は小さな
「クレピュスキュール」
「ニトロ来てたのね。ごめんなさい、気がつかなかったわ」
彼女はぼくに気がつくなり、駆け足で抱きついてきた。小さな背中にそっと手を当てる。
この子をスロータイムズタウンへ連れて来たのは間違いだったのかもしれない。だけどあのまま放っておいたら、僕ではなくきっと死神が迎えに来ていただろう。
「また周りの音が聞こえなくなるほど読書に熱中していたのかい?」
「ええ。知らないことが沢山あって、いつもつい夢中になってしまって」
「そっか」
現実世界でこの子をみつけたのは偶然でしかなかった。
あの時、ぼくは新しいプレイヤーに相応しい子を探している最中で、静かな住宅街を歩いていた。もしこの子の心の叫びを聞き逃していたらと思うと、今でも時々怖くなる。
気になって様子を見に行っただけのぼくにはいささか衝撃が大きかった。狭く異臭の漂う部屋の隅で、痩せぎすな身体で骨ばった両足を抱えた彼女がボロボロになったぬいぐるみの手を握りしめて震えていたから。
『ここに居たい?』
俯いたまま、彼女は力無くも首を確かに横に振った。
過去に起こったこの出来事は予定調和とはいかず、表向きには新しいプレイヤーとしてスロータイムズタウンに連れて来て、実際にはこうして匿っている状態だった。
子育てなんて全くわからないところから、心を閉ざした彼女を今までなんとかして育ててきた。戸惑うことばかりだったけど、いい子に育ってくれてよかった。
今ではすっかり健康になって、今まで与えてもらえなかったであろう幸せをありったけ用意した。綺麗なドレスを着せ、所望されるたびに本を与えて不自由のないように今日まで一緒に過ごしてきた。甘やかしている自覚があったのに、あまりわがままを言うこともなかった。
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