第4話 現実世界のことは忘れて
「君は今からミンストレルだ」
「本当の名前を名乗ったら現実世界に何かしらの影響が出るんですか」
「そういうわけじゃないけど、ここにいる時くらい現実世界のことは忘れてもいいんじゃない?」
「そう…ですね」
「もし困ったことがあったらぼくの使い、ホス君が現れる。困ったら彼らを呼ぶといい」
「呼ぶってどうやって」
「願えばいつでも。時々ぼくも様子を見に行くつもりだから」
なんだか魔法みたいだな、と思わず笑ってしまった。
「今のところは大丈夫。なんだか面白そうな世界だし、ちょっと楽しくなってきたよ」
この世界に来てからまだ一時間も経っていないだろう。いや、それは僕の体感であって、この世界の時間が実際にどれくらいの速度で流れているのかは正直よくわからない。
砂の荒野を当てもなくただ歩いて行く。
ここはなんだか不思議な場所だ。空は夕日も出ていないのに赤いし、鳩や野良猫のような街ではよく見かけすぎて景色と化している動物や、空に無粋な線を引く電線といったものが見当たらない。
この感じだと、この先僕の知っている常識は通用しなさそうだな。
木製の建物は見慣れない為かなんだかテーマパークのように思えて、中から酔っぱらったカウボーイでも出てきそうな景観だ。
「お腹空いたなぁ」
ぐうと鳴ったお腹に何気なく視線を落とすと、左胸にレーザーポイントが当たっていることに気がついた。
「これって」
「危ないッ」
横から誰かが飛び出してきて突き飛ばされる。
周辺で一番高い建物の上に誰かいる。太陽の光が眩しくて顔まではわからないけれど、長い黒髪のシルエットが走り去るのが見えた。
「大丈夫?」
唖然とする僕に声をかけてくれた彼は、白いティーシャツの上に紺色のブルゾンを着て、黒のスキニージーンズを履いている。この子は誰だろう。
それにしても、ロングカーディガンのままだと今みたいに逃げ遅れた時誰かが犠牲になってしまうかもしれない。どこかでもっと身軽な服に着替えられないかな。
「怪我はしていないみたいだね、よかった。咄嗟のことだったから」
「ごめんね、僕がぼうっとしてたせいで君まで危ない目に遭わせて」
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