邂逅

第3話 ここでゲームを

「君にはここ、スロータイムズタウンでゲームをして戦ってもらう」


「ゲーム?」


「そう」



 シルクハットをかぶり直し、こちらに視線を向ける。燕尾服を着こなしているが、どこか幼さの残る風貌で違和感がある。



「ここスロータイムズタウンは、ゲームマスターであるぼくが管理しているんだ。本来君の生きるべき世界とは全くの別世界。その名の通り、時間の流れが



遅いのではなく?と聞き返したが、「全てがちぐはぐで、意味の分からないことが起こる。それがこの世界なのさ」と当たり前のように返されてしまった。

 この状況を無理やり脳に理解させる。混乱しているうちにも彼は微笑して続けた。



「ここで君にやってもらうゲームにはいくつかルールがある」



両手を大げさに広げ、不気味な満面の笑みを見せた。



「攻撃すればその分幸福が得られるし、反対に攻撃されれば不幸になる仕組みだ。致命傷を追えば当然死ぬ。ちなみにこの世界での死はそうだな、地獄に堕ちることだと思ってね。ルールを破っても同じこと」



 にやけた口元を、白手袋をした手で隠しきれないでいる。どこら辺に面白みがあるのかわからないけれど。



「ここには君以外にもプレイヤーがいる。彼らと戦ってもよし、仲間になるもよし。それは君と相手のプレイヤー次第」



仲間になる、というのは恐らくパーティを組むことで勝率を上げるためだ。それで戦闘を回避できるわけじゃないけれど、少なくとも協力関係を結べたプレイヤーとは傷つけ合わなくて済む。



「現在プレイヤー達に配布している武器は、バズーカ、サバイバルナイフ、ポイズン、アサルトライフル、リボルバーの五つ。君はそうだな、このボムを使うといい」



手渡されたのはチョコレートの欠片のような立体の小型ボム。形も大小も様々、透き通っていてまるで宝石みたいだ。

 初めて持つボムの感触に鳥肌が立つ。



「君なら上手く使えると思うよ。受け取らない、はなしね」


「使うことはないと思いますけどね」



渋々ボムを懐にしまうと、彼は人さし指を立てた。



「どの武器も、そのプレイヤーの現実世界で追った心の傷が源になって形成されている。サバイバルナイフなら刃が、リボルバーなら装填されている弾丸が」


「じゃあ、深い傷を負っているほど武器の精度が高いの?」


「そういうことになるね」



ふっと彼はシニカルな笑みを浮かべた。



「他プレイヤーとの武器交換はNG、だけど住人にカスタムしてもらうのは自由だよ。それに朗報、ここでは飲酒も煙草も賭け事も年齢関係なくオーケー。現実世界に戻った時反映はされないよ」


「遠慮しておきます」


「つまらないなぁ君は」



終始楽しそうに話す彼に、少し嫌気がさしてきた。彼を嫌な気持ちにさせてしまうかもしれないからずっと微笑んで話を聞いていたつもりだったけど、無意識のうちに顔に出ていなかったかな。



「ルールはそれだけですか」


「うん。ぼくがここから離れた瞬間から君は他のプレイヤー達に認識され、狙われるからせいぜい気をつけることだね」


「ご忠告ありがとうございます」



では、と言いかけて、ふと気になったことを尋ねてみた。



「あなたの名前は?」



面食らったような顔をしたけれど、すぐに笑顔になる。こっちの笑い方の方がいいな、なんというか演技的じゃない自然な笑顔。



「ここではゲームマスターニトロと呼ばれているよ」



ニトロ、爆弾という名前なのか。



「おっと、危ない危ない。大事なことを言い忘れていたよ。スロータイムズタウンではコードネームで呼び合う決まりでね」


「コードネーム?」

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