25.痴話ゲンカ
とりあえず新しいオムライスが届くまでに、俺は3人の冒険者を店の外に連れ出していた。
人影のない、店の裏側だ。
なにせ失禁したヤツが隣にいるまま食事なんてで出来ないからね。
他の2人も、文句を言わず付いて来てくれたみたいだ。
「とりあえず俺への悪口は別に許してあげていいよ。ナツキさんが怒ってくれたからな」
「あ、あぁ……。クエスト報酬が満足いかなかったせいで、イライラしてたんだ……すまない……」
「うん、いいよ!」
まず俺は、俺に対しての暴言を許した。
ナツキさんが俺のために怒ってくれたのが、普通に嬉しかったからね!
だけど……。
「さて、じゃあ次はナツキさんに対しての暴言についてだな。
バックスだったか?お前ナツキさんに対してデカいだけの女とか、殺してやるとか、散々言ってたよな?」
「え……?あ、ああ。それは本当にすまなかっ……ヘブゥゥ!?!」
「バ、バックス!?」
俺はバックスが全てを言い終える前に、彼の顔を足裏で蹴っていた。
そして地面に勢いよく倒れ込んだバックスの胸ぐらを掴み、再び起こす。
「俺のことは何言ってもいいよ。どうせお前なんか1秒あれば3回は殺せる。
けどナツキさんを馬鹿にした事と、オムライスを踏んだのは全くの別問題だね。その口、もういらないだろ」
そう言って俺はバックスの口を無理やり開き、そのまま舌をガッと掴んだ。
そして千切れない寸前まで外に引っ張り出し、そのまま俺の顔をグッと近付ける。
「どうする?2度と喋れない、味も分からないような体になるか?」
俺は煽る意味で満面の笑みを浮かべたつもりだったが、多分怒りに満ちた顔になっていたと思う。
ナツキさんのことに対してかなり熱くなっている自分自身に、少し驚いたぐらいだったから。
「グガ……グガガゲグ……」
「何言ってるのか分かんないよ。もう、お茶目だな」
そして俺は掴んでいたバックスの舌の先を、とうとう握りつぶした。
「ギャ……ギャァアアアア!!!?」
「バ、バックス!?大丈夫か!?」
「おいしっかりしろ!」
痛みにもがき苦しんでいる様子のバックスに、仲間の2人が駆け寄って心配している。
本当ならこの2人にも反省をさせたい所だが、スグに時間の無駄だと察する。
なにせ今の俺には美人なツレと、美味しい料理が待っている!
既に
「もう2度と絡んで来るなよ?次はもーっと痛い目に遭わせるからね!」
「「は、はい……!」」
そして俺は右腰の刀を、
刃が3センチほどしか見えない程度だ。
するとそれを見た2人は、さらに青ざめた様子で呟く。
「……あの雷を模した刀のツバと、深い黄緑にも見える刃の色。ま、まさか雷光龍の刀……!?」
「つまりそれって……だ、断罪されたSランク冒険者、サン・ベネット!?!?」
とうとう腰を抜かしてしまった2人は、口をポカンと開けたままその場から動かなくなっていた。
◇
「遅かったなベネット、ケガはないか?」
「ちょ、子供扱いしないでくださいよナツキさん!!ちゃんと反省を促してきましたよ」
「そうか。それより先にオムライスを食べ切ってしまったぞ。な、なにせ我慢できなくてな……」
「食いしん坊はいいことです」
そう言って俺はイスに腰掛けていた。
確かにナツキさんの言葉通り、彼女の皿は綺麗になっている。
もはや卵のカケラすら残っていない皿は、洗い終えた後なのかと勘違いしてしまうほどだった。
「それにしても、ナツキさんが俺のために怒ってくれたのは嬉しかったな~」
「君のために怒った?さて、なんの事だか分からんな」
「またまた~!俺が馬鹿にされたから怒ってくれてたじゃないっすかぁ」
「あくまでも私は、料理を粗末にした事に怒っただけだよ。君が馬鹿にされて怒るほど、私は君に情など無いぞ」
「ヒドい!!目の前にいる人に向かって、そんなヒドい事言えるナツキさんは鬼だ!悪魔だ!」
「ハッハッハ。オムライスを食べた今の私は、何を言われても怒らないよ。残念だったな」
そう言う彼女の頬は、少しだけ赤くなっているように見えた。
ナツキさんにとって俺という存在が”冗談を言い合える相手”になれた事は、素直に嬉しい。
「はいよ、オムライスお待ち」
そんな事を考えていると、店主が今日3つ目のオムライスを運んできてくれていた。
相変わらず形の整った、綺麗なオムライスだ。
「お兄さん、厄介な冒険者の対処をさせてしまってスマなかったな。もちろんオムライスの代金はいらないよ。
むしろ嬢ちゃんの美味しそうに食べる顔でお釣りが出たぐらいだからね」
「マジっすか!?ありがとうございます。こんなクオリティの高いオムライス作ってもらったのにラッキー!
でも1つだけ疑問なんすけど、ここにお嬢さんなんていないですよ?悪魔とか鬼なら……」
【ドンッッ!!!】
すると俺が全てを言い終える前に、なぜか机にフォークがタテに突き刺さっていた。
そのフォークは俺の右手から1cmほどの距離に刺さっており、まさに大ケガ寸前だ。
「ベネット?何か言いたそうだな?最後まで言ってみろ」
「いえ……ナツキお嬢様のお顔は、今日も一段と美しいです」
「分かればよろしい。店主すまないな、フォークが少し曲がってしまったかもしれん」
するとそれを聞いた店主は、大きな笑い声をあげながら答えた。
「ハッハッハッハ!!アンタ達夫婦は面白いなぁ!見ていて飽きないよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます