26.食べられれば、それでいい
「「ふ、夫婦じゃない!!」」
俺たちは”同時”に、店主の発言を否定していた。
ちなみに俺が夫婦である事を否定した理由は、ナツキさんに嫌な思いをさせたくないとか、ナツキさんに怒られたく無いとか、そういう理由だ。
だがナツキさんはどういう理由で否定したんだろう?
真相は分からない。
「そ、そうかそうか。すまない、仲が良いからつい……。
じゃあ気を取り直して、お兄さんにも俺のオムライスを食べてもらおうかな。俺はあの冒険者たちに踏まれたオムライスを掃除しておくから」
そう言って店主は床に落ちたオムライスを拾うために、厨房へ
だがそこで落ちていたオムライスの存在を思い出した俺は、即座に店主の背中に語りかける。
「待ってください、別に掃除しなくていいですよ。勿体無いですし」
そう言って俺は席を立つと、そのまま床にヒザをついてオムライスを見つめた。
確かに野蛮な冒険者バックスに踏まれた跡が残ってはいるが、別にこれぐらいなら許容範囲だ。
「ベネット、君まさか……?」
ナツキさんは俺に問いかけていたが、その前に俺は潰れたオムライスに手を伸ばし、そして……。
【パクッ】
そのまま口の中へと運んでいた。
「ベ、ベネット!?かなり汚れているように見えたが、大丈夫なのか?」
「うーん……ちょっとジャリジャリしますね。でも……美味い!!メチャクチャ美味いっすよコレ!!」
俺は味の美味しさの感動のあまり、さらに2口目に手を付ける。
砂のジャリジャリ感では隠せないほどに、このオムライスは濃厚でトロトロでクリーミーだったのだ!
「お腹を壊してしまうぞベネット」
「大丈夫っす、子供の頃はもっとエグいモノ食べて来ましたから。こんなの全然ご馳走っすよ!
なにより俺は食材を無駄にするのが嫌なんです。全ての料理に、料理人の想いがこもってますからね」
それを聞いていた店主は、少しだけ涙ぐんでいるよう見えた。
あとから聞いた話だが、このオムライスは店主の亡くなった奥さんが生前に考えたレシピで作ったそうだ。
料理には必ず物語がある。
だから俺は毒でも無い限りは絶対に食べ残さない。そう心に決めていた。
「さて、じゃあ次はジャリジャリしないオムライスをいただこうかな!!」
俺の前世の料理人としての矜持は、今のサン・ベネットの人生にも繋がっていたのだと実感するのだった。
————————
「またいつでも来てくれよ!君たちになら、いつでもオムライスを沢山作ってあげるから」
「はい、また来ます!ご馳走様でした~!」
こうして店を後にした俺達は、いよいよ本来の目的に向かう。
というのも、どうやらこのケンプトン村は通過地点だったようで、本当の目的地はこの先にあるケンプトン砂漠のようなのだ。
「ナツキさん。オムライス食べるためにワザと早く着いて、ワザと本当の目的地を言わなかったんでしょ?」
「……なんの事か分からんな。たまたま早く着いて、たまたまオムライスの店があっただけだぞ」
こうなると彼女は頑固だ。
短い付き合いだが、それは何となく気付いてた。
「それで?本来の目的地でもある砂漠に、一体何の用があるんすか?別に刀渡すだけなら村の中でも良かったじゃないですか」
「そうか、君はまだ知らないんだな。刀はまだ”完成していない”という事を……!なに、スグに理由は分かるさ」
「えぇ?完成してない……?」
突然予想だにしていない返答を受けた俺は、口をポカンと開いたままになっていた。
だがそんな俺の気持ちなど関係無しに、砂漠の向こうに”人影”が映り始める。
「見えたぞ。あれが今回の客……。
クローブ王国騎士団団長、アスロット・キッドマンだ」
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