23.ワクワクオムライス

「はい、オムライス2つ」


 注文から数分後、ようやくナツキさんイチオシのオムライスがやってきた。

 見た目は前世で見たモノより少し丸みを帯びているが、正真正銘オムライスなのは間違いなさそうだ。


 ていうかこの世界でもオムライスはオムライスって名前だったんだな。意外な発見。



「さぁ来たぞベネット!これが私と師匠も食べた”卵の泥包み”だ!」


「まだ泥って言ってる!?今店主がオムライスって言ってたでしょ!!」


 まったくこの人は、料理に関しての感性が面白過ぎるな。

 俺は楽しいからいいんだけど……。


「それじゃあ……いただきます!」


「いただきます!!」


 まぁそんな事はどうでもいい。

 俺も腹は減っていたし、いよいよオムライスの真ん中をナイフでタテに切って、、、


【パカァ……】


 コレよコレ!この中の半熟卵が広がっていく光景、これぞオムライスよ!

 さぁ、あとは味がどうなのか気になる所だが……!



 カラン……



 だがそのタイミングで、店に3人の男たちが入店してきた。

 服装や魔力量から見るに、C~Bランクの冒険者のようだな。


 まぁそんな事は知ったこっちゃ無い。

 改めて切り分けたオムライスを口に……。



「おいおい、こんな汚ぇ店でデートかよ!キャハハハ!!ショボい料理なんか食って、女も貧乏な男に捕まって可哀想だなぁ!!」



 うーん、明らかに俺たちの方を見て言われているな。

 ソイツは背中に大きな剣を背負っており、ツンツンとした髪型と赤い瞳が印象的な若者だ。


 そして冒険者ギルドの帰りなのか、右手には報酬と見られる小さな袋を持っている。

 おそらくあの中に金貨や銀貨などが入っているのだろう。


「おいおい、やめてやれよバックス。チビで弱そうな男の方が泣きそうになってるじゃねぇか!」

「女の方は結構可愛いのに、男を見る目はなかったみたいだね!カハハハハッ!!貧相な人間同士、お似合いじゃん!!」


 そして後ろにいた2人の冒険者も、バックスと呼ばれた男に続いて俺達に罵声を浴びせていた。


 あぁ、最悪だ。とても最悪だ。

 チビと言われた事が?泣きそうなんて言われた事が?


 違う、そうじゃない。

 ナツキさんを馬鹿にされた事だ。


【ガタッ!!】


 俺は無意識にイスから立ち上がり、3人の男をニラみつける。

 だがそこからの展開は、正直言って何も考えてはいなかった。


 ただナツキさんを馬鹿にされた事に対して、反射的に立ち上がってしまっていたのだ。


(殺すか?いや……店主にも迷惑がかかるし、これから刀を渡す事ができなくなるかもしれない)


 ならここは穏便おんびんに済ませるしかないのか。

 落ち着け、深呼吸しろ。怒りを腹の底に抑え込んでから……。


「は、ははは!これは恥ずかしい所を見られちゃったな。でもココのオムライス美味しいんで、ぜひ御三方おさんかたも食べてみてくださいよ」


 俺はまだ食べてもいない、味の分からないオムライスをオススメしていた。

 だが何とかコレで収まってくれと、事態の収束を願う。


 しかし……。



「あ?なに命令してんの?俺たちに命令できるほど、お前は偉いのかチビ?あぁ?」



 そう言いながらドンドンと近付いて来たバックス。

 そしてとうとう俺のオムライスの皿を持ち上げ、それを床にベチャッ!と投げつけていたのだ!


「俺はこの世界に8パーセントしかいないBランク冒険者だぞ?こんなクソみたいな食い物いらねぇんだよ。おい店主、この店の酒と肉、全部出せっ!!遅かったらこの店ぶっ壊すからなぁ!?」


 そしてバックスは床に散らばったオムライスを踏みつけ、俺に向かって最後にもう一度言い放つ。



「おい、俺の前で女を守ろうとすんじゃねぇよ。2度と女の前でカッコつけんじゃねぇ。お前みたいなチビに守れるモノなんて、この世に1つも無いんだよ」


「…………」



 その瞬間、怒りによって魔力を全身から噴き出したのは俺……。


—————ではなく、まさかのナツキさんの方だった。



「……今の言葉を取り消せ、このクズが」

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