18.力加減が分からない
【元冒険者サン・ベネットがナツキさんに捧ぐコース料理 1品目】
おぉ、この
とにかくここに油を注いで温めつつ、隣のコンロで”ゆで卵”も作っていこう。
あとは上質なひき肉に卵とパン粉、ミルクと胡椒も忘れないように入れて”肉だね”を作って……。
「よし。じゃあゆで卵に小麦粉を少し付けて、周りをこの”肉だね”で丸く包んでください!!僕は溶き卵を用意するんで」
「な、なに!?私もやるのか!?私は料理は全くダメだと言ったはずだぞ」
「肉で包む事ぐらいできるでしょ!ぜひ料理の楽しさをナツキさんにも知ってほしいんですよ」
「うーん……」
かなり気乗りしない様子のナツキさんだが、渋々彼女は手を洗ってから卵を手に取り、”肉だね”に手を伸ばし始めた。
——————だがその時だった。
【ッパァァアアアンン!!】
なぜか突然、破裂音のようなモノが小屋全体に響き渡っていたのだ!まるで風船が割れるような、そんな強烈な破裂音だ。
「なに!?なにごと!?まさか熱した油が何かに引火して……」
さすがに冷や汗をかき始めた俺だったが、なぜか破裂音に対して全く反応のないナツキさんが視界に入る。
「なにやってんすかナツキさん!今すごい音……が……」
そして俺は喋りながら気付いてしまった。
彼女の右手にあったはずのゆで卵が、見るも無惨な姿に変わっている事に。
「ま、まさか……握り潰したん……ですか!?」
「だから言ったじゃないか。私は料理は”全くダメ”だと」
「”全くダメ”のベクトルが想像と違ったッッッ!!」
もうアレだよ、飛び散ったゆで卵の
「わ、私だって潰さないように努力はしているのだぞ!?だが、いかんせん食材は私にとっては柔らかすぎるのだ……」
「バケモノじゃないすか」
「油で揚げてやろうか?」
「すいませんでした」
クソ……、まさかの”物理的に料理が苦手”だったなんて予想外だ!
きっと”肉だね”で卵を包めたとしても、またその卵を破裂させてしまうだろうな。
「えっと……じゃあナツキさんはフルーツを切っといてもらえますか?確かまな板は洗っておいたんで、そこにあるヤツ使ってください」
「き、切る作業は得意だぞ!任せておいてくれベネット!!」
そう自信満々に包丁に手を伸ばすナツキさんだが、多分ダメな気がする。まだ彼女は何もしてないよ?何もしてないけど、多分ダメな気がする。
……口に出したら殺されるから言わないけど。。。
◇
と、とりあえず俺は自分でゆで卵を”肉だね”で包み、溶き卵とパン粉をつけてドンドンと揚げていく事にした。
ちなみに油に入れる前にしっかりと転がして、中の空気を抜くのが失敗しないコツだ!これは絶対に忘れないようにしないと。
なにせ少し予想外の事が起こった手前、続く料理の失敗だけは避けたいからね。
……にしても、このジュワァアアって音聞くと勝手にお腹は空いてくるんだから不思議なものだ。
あとは油の中でも転がしつつ、頃合いを見て取り出せば完成なのだが……。
【ズドォンン】
まーた変な音が小屋に響いた。
だが今度は俺も驚かない。なぜなら原因は隣でフルーツを切っていたはずのナツキさんなのだから。
「よし、切れたぞベネット!こ、これぐらいなら私でもできるぞ?」
「いやナツキさん………まな板まで切ってどうするんですか!?」
「まな板……?あぁ、この木の板もしっかり切っておいたぞ。それにしてもまな板というのは不便だな。料理をするたびに毎回新しいのを買いにいかなければならないのに、なぜいちいち使わなければならないんだ?」
あ、この人ダメだ。まな板を料理するごとに消費するモノだと勘違いしてるー。もう常識が通用しなくなってるー。
まな板を切れるほどの”包丁”と”腕力”が合わさって、この小屋だけ常識がおかしくなってるー。
「よし、ナツキさんはイスに座って待っててください。これまでもこれからも、僕が最初から最後まで作ります。だからもうこれ以上、まな板を痛い目に合わせないであげてください」
「あ、あぁ……そこまで頼まれるなら仕方ないな……?」
こうして凶悪なキッチンモンスターを排除する事により、無事俺たちの朝ごはんは守られたのだった……。
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