19.スコッチエッグ
「さぁ完成しましたよ!たんと召し上がれ」
朝飯にしては少し気合を入れすぎた感のある”スコッチエッグ”と”サラダ”と”フルーツの盛り合わせ”。
だがナツキさんには家に泊めてもらっている立場だし、これぐらいのお返しはしないとな!
「おぉ……こんなマトモな料理は何年振りだろうか。た、食べてもいいのか?」
「待ってください。ちゃんと2人が座ってから……。さ、手を合わせてください!」
「いただきます、か?」
「えぇ!?何で知ってるんですか!?あ、まさかナツキさんの師匠が教えてくれたんですか」
「その通りだよ。食べる前には手を合わせて、命に感謝する。ニホンではこれが普通なのだろ?」
そう言ってナツキさんは少し誇らしそうな顔で俺を見つめていた。
その目はキラキラと輝いているようにも見え、俺の心は少しだけ温かい気持ちに変わっている。
「そうですよ。じゃあ改めて……いただきます!」
「いただきます」
そして俺たちは今日最初の食事を口に運ぶのだった。
◇
「うん、良い感じで揚げられてるな。火加減が難しくて迷ったんですけど、成功っすよ!」
俺は自分の作ったスコッチエッグの出来に満足していた。できれば半熟で作りたいと思っていたのだが、どうやら油から取り出す時間は正しかったようだ!
そしてサラダで口を整えつつ、カルマルで買っておいたソースで味を変えて再びスコッチエッグを口に運ぶ。
【サクッ】
……うーん、控えめに言って美味い!
控えめに言わなければクッソ美味い!
前世の料理人の記憶がそこそこ残っていて本当に良かったと、今の俺は全身で感じている。
そして気になるナツキさんの様子はというと……。
「…………信じられん!あんな高音の水の中に浸けていたのに、卵の中が固まっていないだと!?」
「水じゃなくて油っすね」
「魔法か!?なんの魔法を使ったんだ!?」
「いや食事中にメッチャ喋るじゃないすか。ハハハハッ!!」
そう、俺の願い通りにナツキさんは美味しそうに料理を食べてくれていた。
口元についた衣にすら気付かないナツキさんは、いつもの高貴な雰囲気など捨ててしまったかのように料理をドンドンと口に運んでくれていた。
「ベネット……美味しいぞ!とても、とても美味しいぞ!!」
「あ、ありがとうございます……」
本来とても嬉しい言葉なのだが、なぜか俺は少しだけ恥ずかしさを感じていた。
きっとそれは、尊敬する人からシッカリ目を見て褒めてもらえたという事が、俺にとって特別だったからだと思う。
そしてその屈託なく笑う彼女の顔を、ずっと見ていたいと本気で思う自分がいた。
————————
その後はお互いに食事を進め、最高の気分のまま食器から料理が無くなろうとしていた。
そして俺はふとナツキさんに問いかける。
「ナツキさんって、カルマルの街に行く事があったんですね。街の人たちになんて呼ばれてるか知ってます?」
「……確か”赤竜の女王”じゃなかったか?」
「え、知ってたんすね!?」
「それはそうだ。なにせ遠くから子供達がいつも叫んでいるからな。”赤竜の女王が来たぞー!"ってね」
「はは、じゃあ話は早いっすね。実は俺、ナツキさんの誤解を解きたいと思ってるんですよ。だから今度一緒にカルマルに行きましょうよ!少年に連れてくるって約束しちゃいましたし……」
正しくは”倒した赤竜の女王を連れてくる”と言ってしまったのだが、まぁ何とか言い訳できるでしょ。知らんけど。
「別に誤解を解いても、何も変わる事はないんじゃないか?」
「いやいや、まず俺はナツキさんがスゴイ人なんだって知ってほしいんですよ!だから誤解を解いた後は、街に移住して暮らしたらどうですか?あの経済も発展しつつある街なら、きっと沢山の人と出会う機会がありますよ」
「移住……」
すると唐突すぎたのか、さすがにナツキさんの表情も曇っていた。そして重たそうに口を開く。
「私はこの鍛冶小屋が気に入っているんだ。師匠の残した遺産でもあるからね。だから私は、死ぬまでここで刀を作るつもりだよ」
「そうっすか、そうっすよね……」
ある程度予想はできていた答えだった。
確かにこんな過酷な環境で何十年も過ごしているのだ、それ相応の理由がないとおかしいのは当然だ。
「そもそもナツキさんって、なんで刀を作り続けてるんですか?師匠との約束とか何かですか?」
「……そういえば君には話した事はなかったか」
するとナツキさんはコップに入ったミルクを飲み干し、そして覚悟の決まったような目で俺に真実を語った。
「私は……私を殺せる刀を作っていた」
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