17.スローライフを夢見て
用事を終えた俺は、いよいよカルマルの街を出て行こうとしている。
どうやらお見送りには、俺の弟子(仮)になったネスタと、その父親のマグナクスタさん一同が来てくれているようだ。
ちなみに俺が対処した魔獣は特別強い訳ではなかった。
だが防衛団が少ない時間だったということもあってか、俺に対して非常に感謝をしてくれている。
「じゃあ、また食材がなくなったら来ますね。では!」
「あぁ、いつでも来てくれベネット君!君はこの街を守ってくれた英雄だからね」
「ハハ、あざっす!」
”英雄”なんてのは明らかに誇張されているが、まぁ悪い気はしないので否定はしないでおこう。
それより俺にとっては、山の鍛治小屋から”そこそこ近い街”に良い食材が揃っていると知れただけでも大収穫だ。
これで色んな料理を作って、ナツキさんを喜ばせることができるんだから!
……なーんて事を考えながら帰路についていた、その時だった。
「師匠!今度は
なんと突然、ネスタが俺の背中に向かって叫んでいたのだ。
待て待て、確か赤竜の女王……ていうか”ナツキさん”はこの街では”恐れられて”いるんだよな?
ならネスタがそんな事を大声で言っちゃったら、街の人たちが……。
「ま、まさかベネット君は……赤竜の女王の仲間だったのか!?」
「えぇ?まさか使いの者だったとか……」
「おいおい、まさか俺たちの事を監視しに来たんじゃないのか」
あーあ、めんどくさい事になっちゃった。街の人たちが俺のことを”悪人”の目で見始めちゃったじゃん!
こうなったらもう……言い訳するしかない。
「わ、分かったよネスタ!俺が赤竜の女王を倒して、その証拠を持って来てやるよっ!」
するとそれを聞いた街の人たちは、”あぁそういう事ね……”とスグに納得はしてくれたように見えた。というかそう思わないと申し訳なくて帰れない。
「で、では改めて失礼します……」
俺は疑問の表情を浮かべるネスタを尻目に、なぜか気まずそうに街を後にするのだった。
————————
それにしてもカルマルは良い街だった。
面積は特別広い訳ではないが、他の地方商人もそこそこ集まっていたし、街の住民も特に生活が苦しい様子は見られなかった。
それに街並みがとてもキレイだ。
カラフルなレンガで組み立てられた住居と、街の中心を流れる綺麗な水路。
石を巧みに使った小さな橋やオブジェなども、きっと街の古風でオシャレな雰囲気を醸し出している要因の1つだろうな。
どうやらここの領主は、かなり優秀な人と見て良さそうだ。
そして空き家がいくつか存在していたのも、俺にとって大きかった。
マグナクスタさんいわく2階や3階建ての物件もあり、今まさに入居者募集中だそうだ。
おそらくこのまま経済が発展していけば、人もドンドンと増えていく。
そして数ヶ月後にはあの空き家も埋まっているのは間違いないだろう。
「スローライフを送るには、うってつけな街かもな……」
俺はそう呟きながらチーリン山脈の雪山を登っていくのだった。
◇
「ナツキさん、たっだいまー!!」
ようやく鍛治小屋に到着した俺は、勢いよく玄関のドアを開いて帰宅の合図を響かせる。
そしてもちろん俺はナツキさんの”おかえり”を期待していたのだが、なぜか俺の目に飛び込んできたのは全く想像もしていない光景だった。
「だ、誰だ!?!?」
「あぁ、ナツキさん着替え中だったん……」
だが俺が全てを言い終わる前に、ナツキさんが無言で投げた鉄のハンマーらしきモノが俺の腹に直撃しており、とうとうその場にうずくまる事しかできなかった。
沢山の肌色を見れたという喜びと、肋骨に当たったであろうハンマーの痛み。
これらが同時に押し寄せた結果、俺は感情が壊れて涙を流してしまっていた。
「うぅ……痛いのか嬉しいのか分からないよぉ……」
「ベ、ベネットか!?すまない、つい反射で攻撃を……」
「いや……。ノックせずに、いきなり入った俺が悪いっす。反射で攻撃できるのは戦士の
何とかギリギリで魔力による肉体強化をしていたおかげか、骨折などの大ケガは免れていた。
だが今後はナツキさんを突然驚かせたり、怒らせたりするのは絶対に気をつけよう。命がいくつあっても足り無さそうだからな。
「とりあえず早く服着てください、目のやり場に困るんで」
「あ!こ、こっちを見るなよベネット!!」
「もう見ませんよ……ていうかその間に台所借りますね。食材を沢山買って来たんで」
そう言う俺は、背後でゴソゴソと服を着替えているナツキさんを気にしつつ、カルマルで買って来た食材を台所にドンッと置いていた。
この小屋に来た当初はとても汚く、散らかっていたナツキさん家の台所。だが何度か食料を作るにあたって、少しずつ整理整頓はしておいた。
今ぐらいの整理整頓具合であれば、問題なく質の高い料理は作れそうだ!
……ていうか何日かこの小屋で過ごして分かった事だけど、ナツキさんは出したモノを元の場所に戻さないタイプの人間だ。
もうハッキリ言っちゃう。コイツ汚部屋系女子だ!!
なので実は綺麗好きな俺にとっては、基本ナツキさんが刀を打っている時間は整理整頓の時間でもある。ここに来た時に比べれば、かなり足の踏み場は増えた。
まぁどうせ片付けても、翌日には大体のモノが違う場所に置かれてるんだけどね……。
◇
「そういえばナツキさん、朝から打ってた刀は完成したんですか?」
「あぁ、おかげさまでね。あとは依頼者に渡すだけだよ。できれば今日中に渡しに行こうと思っている」
「なるほど……。じゃあパパッと朝飯作っちゃいましょうか」
さぁ、早速カルマルの街で厳選して来た良質な食材の数々で、ナツキさんに心からの”美味い!”を言わせてやるっ!!
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