第165話 世界の外より
ふむ、うーむ。
ん? ああ君たちか。
なあ君たちもひどいとは思わないかい、エミル君の言い草を。
『世界で一番信用しちゃいけないタイプの人間』だなんてさ。
まったく、世の中に私ほど誠実な人間はいないというのに。
リノン・W・W、ほらこの名前の響きからしたって僕の人間性がにじみ出てるじゃないか。
なに? 読み方がわからない?
気にすることはない、好きに読んだらいい。
もちろん正しい読み方があるし、そう呼ばれないかぎり僕は応えないけれどね。
おや、少しイラッときたかい?
いいねぇ、いいねぇ、その調子だ。
その方が私も張り合いがある。
さて、イリアは今回の戦いでシロナを失った。
必要な犠牲だった、とまでは言わないが彼女、ラクス・ハーネットを相手どってその犠牲で済んだのは幸運といってもいい。
ん? 私が本当にシロナを直せるのかって?
うーん、ここで答えるのは簡単だが、それでは先の楽しみがなくなるだろう?
ま、私を信用してくれていい。
ほら、ここまでのやりとりの中でいかに私が信頼に足る人物かは伝わっただろ?
まあそれよりも今はイリアのことだ。
彼女は勇者としての正しい生き様よりも、魔王アゼルの手を取ることを選んだ。
ああ、何とももどかしい。
ここが彼女が引き返す、彼女がまっとうな幸せを手に入れるための最後の分岐点だったのに。
彼女はきっと、自分自身のことで迷うことはもうないだろう。
それが少し、悲しい。
彼女はおそらく最期の時でさえ、決してためらわないだろうから。
僕にできるのはもはやそこに至るまでの道筋を整えてあげることくらいか。
うむ、私は後悔をしない方だが、どうしても悔やまずにはいられないな。
イリア、彼女がこの世界に必要だったことは確かだが、その道行きに彼女自身の幸せを組み込んであげることがどうしてもできなかった。
あとは彼女が彼女自身で自分の幸せを見つけるしかない。
ん、それは当たり前のことだって?
何を言うんだ。本人は幸せだと思っていても、客観的に見れば不幸としか思えないことだって世の中にはごまんとあるだろ?
他者の幸せを望みながら、その幸せのなんたるかを知ろうとしなかったイリアはきっと特大のハズレくじでさえ幸せに思ってしまうに違いない。
もう、私にはムリだが、彼なら、魔王アゼルならもしかしたらイリアの幸せをかたちどってあげられるかもしれない。
いや、イリアは彼の手をとったんだ、それくらいの責任はとってもらわないと僕の気がすまないね。
さて、随分と話した。
君たちも疲れた頃合いだろう。
このあたりで、英雄と勇者、その物語を閉じるとしよう。
英雄は所詮英雄。
どんな悪鬼羅刹であれ問答無用で討ち滅ぼすシステムだ。
たが、どんな英雄であれ、『弱者』にだけは手が出せない。
そこに手をかけてしまった時点で英雄という
だからイリアはその身をもって証明した。
そこにいるのはただの少女に守られるだけの弱い男だと。
巨悪を打ち倒すために一歩踏み出すことが勇気なら、守るべき誰かのためにその立場を投げ出すこともまた勇気だろう。
つまり、イリアが結局勇者であることには変わりなかったのさ。
まあ、魔王にとっての勇者というのは実に変わり種だが。
さあ、今回のお話はこれまでだ。
なに、安心するといい。エミルくんの予想は
次は必ず僕と出会うことになる。
どうかその時を楽しみにしていて欲しい。
とっておきのパフォーマンスを用意して待っているよ。
それでは、おはよう、こんにちは、こんばんは?
いや違うな、さようなら?
これもしっくりこない、ああそうだ、
それでは君たちおやすみなさい。
今宵もいい夢が見れますように。
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