第127話 刀神の里カグラ
「ここが、刀神の里だったでござるか。いくら探しても見つからなかったが、まさかこんな偶然で辿り着くとは──」
「何だい、やっぱりウチの里に用があったんじゃないかい」
女性は呆れた顔で自分を見ている。それはそうだろう、先ほどから言動が二転三転している自分は不審者そのものだ。
「いや、この里を探していたのだが、なかなかたどり着けなかったもので。……この里は何か結界でも張っているでござるか? ここまで黒い霧を抜けて来たのだが」
「結界? 何言ってんのさ。この里は盆地だし確かにあまり余所様に里のことを吹聴しちゃいないが、別に結界なんて大層なもんはないさね。来るも帰るもみんな自由だよ」
…………どうやら、自分の言い分は彼女にとっては随分と的外れなことらしい。
だがそれより、今自分が気になるのは。
「その腰の刀、聖刀でござるか?」
いかにも田舎のおばさんといった風貌の女性だが、その腰には不釣り合いほどに立派な刀が差してあった。
「そうだよ、私の自慢の相棒さ。ああ、余所じゃ刀差して出歩いているおばさんなんていないからね。でもそこは刀神の里と言われるだけあって、子供から大人までウチはみんな聖刀を持ってるのさ」
彼女はそう言って里の中に視線を向ける。
つられて目を向けると、そこの往来を行く老若男女全ての人々はしっかりとした拵えの聖刀を帯刀していた。そしてまた、彼らは自分と似たような着物を着ている。この里と縁のあった主クロムはこの里の衣服を参考にしたのだろうか。
「ウチの里は代々、まあこの聖刀が世に出回り始めた頃から聖刀の扱いのこだわり続けててね。ついには神がかったほどの聖刀使い、『刀神』なんて呼ばれるほどの使い手を輩出するに至ったのさ」
ああ、そこまでは知っている。そして刀神とはどれほどの人物なのか。
「だけどそんな使い手ほいほいと生まれるわけないだろ? だから里で生まれてきた子供たちはみんな聖刀を与えられて、幼い頃からずっと鍛錬をしていくんだよ。さすがに私ぐらいの歳になると朝夕の素振り程度だけど、子供の頃からのことだから腰に刀を差してないと落ち着かなくてね」
恥ずかしげにしながらも、大切そうに刀の柄の頭を撫でている。本当にずっと一緒の相棒なのだろう。
そして彼女が達人であることも分かる。これだけ近くにいながら気配を感じとることができないのだ。その風貌とは裏腹に相当の実力を持っているのは間違いない。
「刀神は、本当にいたのでござるな。拙者はその刀神に会いたくてここまで来た。どうか取り次いで貰えないだろうか?」
その刀神であれば、自分のこの呪いのような重さを払う
「あら、あんた刀神に会いに来たのかい? ────そりゃ困ったねぇ。そしたらまずウチの里長たちに面通ししなきゃ。よし、話をつけてあげるから私についといで」
親切にもこの女性はこの里の長に取り次いでくれるらしい。
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