第118話 人形の苦悩、辿り着いた答え

 星を斬る。


 口にすれば何とも荒唐無稽こうとうむけいだ。


 しかし、それに挑むとなればさらに雲を掴むような話だった。



『シロナはもう、誰の命も奪いたくないんだね』


 然り、すでにこの身は奪った多くの命の怨嗟えんさで呪われているが故に。


『だけど、何かを斬る、ということから離れることもできない』


 然り、この身はその為に生み出された。その熱情を裏切ることは許されない。



『そう、それなら星を斬るといい。天に瞬くあの星じゃない。世界のいしずえたるこの星を斬るの。斬れないモノに挑むことで何も斬らない結果を生む。…………斬るモノを選べない剣士なんて未熟もいいとこだけど、────いいよ、私が許す。シロナは未熟なままで誰よりも高いところに行っていい』


 何を斬るかで迷った結果がこの体たらくだというのなら、常にたった一つ、挑むのも烏滸おこがましいほど大きなモノを斬れと彼女は言う。


 納得も理解も人形たる自分には難しい。


 だが、彼女の在り方が、自分を人形だと知った上で向けられた信頼が、


 明日を夢見ることを諦めさせてくれない。



 夕焼けに、消えゆく彼女を思い出す


 忘れられない、時の残光


 いまだ振るうは 機械仕立ての輝剣きけんなり

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