第96話 クロムの独白

 鉄を打つ。


 鉄を打つ。


 鉄を打つ。



 何度も、何度も、何度も、何度も、


 繰り返し繰り返し、鉄を打ち、


 たった一つの『純粋』を追い求め続ける。





 だからおれは人でなしだ。





 人並みの幸福も、


 穏やかな団欒も、


 誰かとの絆すら遠ざけて、たった一つを求め続けた。


 そうでなければ、自分自身が純粋でいなければ、


 決して『それ』には手が届かないと思ったが故に。



 得られた答えは二つ。


 そこまでしたからこそ手に入ったモノがあり、


 そうまでしても想い描いたモノには手が届かなかった。




 まあいい、


 それはいい。



 器じゃなかった。


 努力が足りなかった。


 色んな言葉で結果を飾ることはできるが、おれにはそんなことはどうでもいい。



 何故なら満足したからだ。


 何十年と時間と己自身を注ぎ込み、辿り着いた自分なりの『純粋』。


 おれ程度の手から生まれ落ちた刀剣かたなたち。


 その全てがおれにとっての子供に等しく、彼らを生み出せたことでおれは鍛治師として満足した。



 そしてそれにより、新たな不満が浮上した。


 そう、おれの子供に等しい刀剣たちが使い潰されていくことがどうしても耐え難くなったのだ。



 いかに優れた聖刀であろうとも、結局は使い手次第。


 未熟な者の手に渡れば容易く傷つき、折れていく。


 そして優秀な使い手たちには聖剣が与えられ、おれたちの聖刀が渡ることなどまずない。


 ああ、なんということだ、


 いつか辿り着くと誓った『それ』のすら、おれたちの研鑽は及ばないのか。



 心血を注ぎこんだ刀が、ただの量産品として消費されていく状況に心が狂ってしまいそうだった。


 いや、実際に狂ってしまったのだろう。



 そうでなければあの結論には辿り着かない。


 使い手が見つからないのなら、使だなどと。


 狂気の海に身をひたすような苦心の末、周囲には気が狂ったのだと笑われながら、おれは最後に一振りのつるぎを完成させた。


 銘はない。


 真白にして無垢なるコレに余分なモノは不要。


 必要だと言うなら、名も用途もコレの使い手が決めればいい。



 ただ、親が生まれてきた子に想うことはいつだってたったひとつだろう。




 どうか、この子が幸せに生きていけますように、と。

 

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