第82話 幻影の愛

 苦しい、痛い、苦しい、痛い、苦しい、痛い、苦しい、痛い



 苦しい痛い苦しい痛い苦しい痛い苦しい痛い苦しい痛い苦しい痛い



 クルシイ、イタイ、クルシイ、イタイ、クルシイ、イタイ、クルシイ、イタイ



 クルシイイタイクルシイイタイクルシイイタイクルシイイタイクルシイイタイクルシイイタイ





 でも、



 それでも、



 死にたくない。



 まだ死ねない。



 何の意味もなく消えていくなんて、



 そんなの、嫌だ。








 自分がもう永くないことはわかっていた。



 自身の内側から毒に蝕まれていく感覚、



 その毒を作り出しているのも自分だって言うんだから笑えない。




 人間と魔族の合の子。



 そんな中途半端な命として生まれたことをオレは呪う。




 こんな不出来な身体で生きていたくない。



 こんな不出来な命のままで死にたくない。





 そう、死にたくない。


 死にたくなんかない。



 まだオレは世界に何も残していない。



 オレが生まれてきた意味。


 それに見合う何かを残したい。


 何の価値もなくてもいい。


 ただのきずあとだって構わない。




 そう、だから


 オレのありったけの憎悪をもって


 世界に決して消えない傷を残したい。


 

 残したかった。



 くやしい。



 悔しい。




 どうやら、オレは何の意味もなく消えていくらしい。



 もう手足には力が入らない。



 オレの視界は慣れ親しんだ闇以上の暗黒で包まれている。



 どうやったって、オレの命はここで終わるんだろう。




 オレの命は、周りからは一体どんな風に見えていたのか。



 オレを守ろうとしたあの女は、何故あんなことをしたのか。



 母親がいたら、同じようにしてくれたのだろうか。





 もう、どうでもいい。





 考えることすら億劫になってきた。





 ふと、手足が軽くなる感覚。



 今まで自身を縛っていた毒が浄化されていくかのような。



 毒と共に、オレの命を動かしていた根幹も活動を止めようとしている。



 これが、死ぬということか。




 最期にオレの唇に何かが触れる。




 それはまるで天使のくちづけのような、





 ガラクタの身体に命が吹き込まれる。





 唇が離れるその瞬間、



 オレはありえもしない愛を幻想した。

 

 

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