第63話 グシャとの邂逅
「ほう、見覚えがあると思えば、勇者イリア・キャンバスではないか。……ふむ、するとそこの小さな妖精が例の魔王の封印された姿ということかな?」
賢王グシャはイリアとの対面に慌てることもなく、まるで用意された台本を読むかのように彼女に言葉をかける。
その賢王とは対照的に彼の後ろに着いてきていた男は慌ててローブをさらに目深にかぶり直した。
「賢王グシャ、ここで会ったということは、─────私の命が目的なのですか?」
イリアはすぐさま立ち上がり、聖剣アミスアテナを抜いて賢王に向けて構える。
「?? これは異なことを。私が何故貴殿の命を欲する必要がある?」
賢王グシャはイリアの行動に対してさも心外といった風に答える。
「どういうことでしょうか? 以前私の命を狙った黒騎士アベリアは全てあなたの命令だと言いました。それは彼の嘘であるというのですか?」
「それこそとんでもない。
幾ばくの罪悪感もない様子で、賢王はただ淡々と言葉を述べていく。
「何勝手なことを言ってるんだテメェ。今まで散々こいつに戦いを押し付けて、挙句の果てに命を取ろうとしたんだぞ。少しは申し訳ないとは思わねえのかよ」
アゼルが怒りを滲ませながら口を挟む。
「ほう、ここで魔王が憤慨するとは意外だな。そしてそれにも答えるならば、─────とくに感じいるところはない。あるのは事実の変動だけだ」
何の感情も見せずに賢王は答える。
「何故、何故私を殺す必要があったのですか?」
自身の感情を押し殺しながら、うつむき加減でイリアは賢王へと問い質す。
「ん? それに関してはアベリアの口から貴殿に伝わるように調整しておいたはずだが。ふむ、結論から言うならば
イリアは唖然としている。
賢王の言葉が全く理解できなかったのだ。
会話の視点が全く違う、彼のそれはまるで神の───
「王よ、ここであまり時間を使うものでは……」
ローブを目深にかぶった男が、賢王の後ろから小声で促す。
「そうか、思ったよりも時間をとったか。すまぬな勇者よ。今は先を急ぐのでな、これにて行かせてもらおう」
賢王グシャはこれで話は終わりだと、馬と男を連れてホーグロンの街を去ろうとする……が、
「──────────そうだな。貴殿に恩義を感じるかといえば違うが、勇者の戦いは多くの人間を救った。その行為に対して一つの知見を授けよう。良いか勇者よ、『見えている世界だけが全てではない。見えない世界、表に転ずることのなかった可能性全てに目を向けよ。さすれば掬い上げた未明がいずれその身を救うだろう』」
「え? それは一体どういう……」
ことですか? と、イリアが言葉を続けるのを待つこともなく、言うべきことは言ったとグシャは立ち去っていった。
残されたのは唖然と彼らを見送ってしまったイリアたちのみである。
「結局何だったんだ? 何で一国の王が余所の国でコソコソしてんだ?」
至極当然な疑問を浮かべたアゼルに対し、
「────────
戦いの時以上に切れ味鋭い、アミスアテナからのツッコミが入ったのだった。
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