第48話 戦中の微笑
先陣を切ったイリアは瞬時にエミルとの距離を詰め近接戦を挑む。
「はぁっ!」
息つく暇のない連撃で、エミルの動きを固めようとするイリア。
「イリアったらいつの間にこんな戦いかた覚えたんだ、か!」
しかし戦闘技量の差か、それでもエミルはイリアの攻撃の間隙を縫って手痛いカウンターを入れていく。
「くっ、──まだです!」
だがイリアは、腹に顔に鋭い拳が入っていく中でそれでも離れないように必死にエミルに食らいついていた。
「あっ、この、せっかくの風纏が、」
優勢に戦闘を進めるエミルだが、イリアの接近によって自身に施した風の強化魔法がすぐさま霧散していく。
「よし上出来だイリア! そのままそいつを足止めしてろよ」
イリアがエミルの動きを止めたのを見計らってアゼルが大量の魔石を彼女
ダダダダダダダダダ!!!!
「ちょ、それは汚い!」
大量の魔石がイリアごとエミルを襲う。
しかしイリアの言葉通り、魔石は彼女に触れる直前で砕け散り、エミルにのみ魔石が衝突していく。
「痛っ、イタタタタッ。」
エミルは致命打を器用に避けながらも、さすがに空間一帯をカバーする大量の弾幕は彼女も回避できない。
アゼルの魔弾が撃ち終わった頃には、打ち身やかすり傷を負ったエミルの姿があった。
まあ、本来はその程度で済むような魔弾ではないのだが、彼女の素のステータスの高さがダメージを大きく軽減していた。
「さすがにしぶといな。まだまだ行くぞ、イリア。そのままそいつをこっちに近づけるなよ!」
初めてエミルへまともなダメージが通ったことに気をよくしたアゼルは、さらに先ほどよりも魔弾の数を増やしていく。
「ちょ、いい加減にっ」
エミルはイリアの攻撃を捌きながら、極力イリアを盾にして魔石を回避し、どうしても避けられないモノは拳や蹴りで直接迎撃する。
だが回避に専念するあまり、イリアとの攻防が僅かにおろそかになる。
「そこっ!」
イリアはその隙を見逃さずに刺突を胸部に打ち込む。
「くふっ」
人間であるエミルには聖剣による刺突も打撃程度の威力になってしまうが、それでも胸に受けたことでエミルの息が一瞬止まる。
勇者と魔王に二人掛かりで攻められ追い詰められながら、苦しい表情の中で、エミルは僅かに嬉しそうに笑っていた。
「はあぁ!」
「うぉお!」
イリアとアゼルは攻撃の手を緩めず、一心不乱にエミルを攻め立てていく。
勇者と魔王、初めての共同作業。
お互いのことなんてお構い無し。
アゼルの魔弾はガンガンとイリアにぶつかるし、イリアもアゼルのことなど思慮の外でエミルを攻め立てる。
息なんてまったく合わない、不器用で不恰好な共闘。
5分後、この戦いの決着が着く。
2人は、笑っていた。
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