第47話 魔勇のタッグ

「エミルさんが戦いで楽しめたら、後は全て任せて良いんですね?」

 エミルに負わされた、決して軽くはないダメージを堪えながらイリアは改めて確認をする。



「そう言ったはずだよ。あ、接待みたいな戦い方したらそれこそタダじゃおかないけど」



「ええ、要は使エミルさんに勝ちにいけはいいんですよね? 任せて下さい」

 


「はん、わかってんじゃん。それじゃ行くよ!」



「ええ、もちろん。行きますよ。!」



 イリアの掛け声と同時に、彼女の頭を飛び越えてアゼルがエミルに斬りかかる。



「ふん、悪く思うなよ!」



「!?」


 突如襲ってきたアゼルに虚を突かれたエミルは大袈裟に転がりながら彼の魔剣を避ける。


 今までの華麗な回避は見る影もない。


 それはそうであろう。

 今のエミルはイリアの登場によってまったく魔力を貯められない。

 魔法の加護なしでアゼルの魔剣を受け止めるのは、さしものエミルにもできなかった。


「あー、驚いた。魔王もまだやる気あったんだね?」


 転がって十分に距離をとったエミルは土埃を払いながら起き上がる。



「当たり前だ。誰がこの程度で諦めるかよ。それはそうとイリア、俺の気配によく気付いたな」



「私の領域の中にあって色濃く魔素を放つ存在はそういないですからね。それに、アゼルがあの程度でへこたれるなんて思いませんよ」


 

 アゼルとイリアは並び立ってエミルと向き合った。


「おいおーい、まさか二人掛かりで攻めてくる感じ? …………勇者と魔王のタッグとかマジ?」



「アレ? エミルさん。ダメでしたか?」

 イリアは珍しく意地悪気な笑みを見せる。



「ん? そんなのもちろん、─────いいに決まってるじゃん!」


 本当に嬉しそうにエミルは答え、二人に向かって走りだす。



「チッ、舐めるなよ!」


 アゼルは真っ直ぐに攻めかかるエミルへと斬りかかる……が、来るとさえわかっていれば、エミルは魔法なしでも超絶的な技巧でアゼルの魔剣を捌き、カウンターの掌底を見舞う。


「くっ、この程度!」


 しかし、魔法の補助のない攻撃ではアゼルへの有効打には至らない。


 エミルが正面で相対するアゼルの剣戟を捌いている間に、イリアはすぐさまエミル後ろへ回り込んでエミルの脇腹へ向けて刺突を放つ。


「は!」


 完全なる挟撃をイリアが仕掛けたその瞬間、



「風纏!」


 突如エミルを中心に風が巻き起こり、アゼルとイリアを吹き飛ばす。


「な、魔法だと!? イリアがどうにかしたんじゃなかったのかよ」



「イタタッ。……ええ、エミルさんの魔力はさっき全部吹き飛ばしましたし、私の領域内では魔力を再度溜め込むこともできないはずなんですが」



「ははは、ホントに頭が固いねイリアは。調度良い魔力タンクがにあるんだから。魔力は溜め込めなくても、その場で生成してそのまま使いきってしまえばいい。ま、常時発動型の魔法はイリアに消されちゃうけど、瞬間的な魔法ならまだまだ使えるよ」


 アゼルを指してエミルは語る。


 そう、先ほどの攻防では、イリアが斬りかかる瞬間にエミルはアゼルの胴体に掌底を打ち込み、それと同時に少量の魔素を吸収して魔力を生成、ノータイムで「風」の自己強化魔法を使用したのだった。



「…………どうやらアゼルのせいみたいですよ」


「…………いやいやそんなのどうしろってんだよ」



 発動までにタイムラグがあるという魔法最大のデメリットを、驚異的な運用効率でほぼタイムロス無しで使用する彼女はまさにチートずると呼ぶに相応しかった。



「でも、ノータイムでこの場で出せるのは風と土の魔法だけのはずです。ここには他の属性のジンの要素が見当たりませんし。もし他の属性を出すなら必ずあの黒いローブに触れた上で詠唱してきますので注意してください」



「ちょっと~。仲間の秘密バラさないでよねー」

 やや離れたところからエミルがブーブーと抗議してくる。



「っ、とにかく。魔法は私がキャンセルしていきますから、アゼルは遠くから魔石で援護してください。エミルさんもあれなら吸収できないみたいですし」



「仕方ない。だが細かいコントロールは苦手だからな、間違ってお前にぶつかっても文句は言うなよ」



「いえ、別にぶつけても良いんですよ?」

 キョトンとした顔でイリアは言う。

 


「いやいや、それは流石に俺でも気が引けるぞ」



「いえ、気にしないで大丈夫です。……私が魔石に触るといつも勝手に壊れちゃうんですよ。────壊れちゃうんです」


 少し悲しいことを思い出したのか、寂しそうにイリアが語る。



「ほう? ほうほう。とにかくお前には魔石の弾は効かないんだな?」


 ニヤリとアゼルは笑い、


「いくぞ魔法使い! 魔王をナメたツケ、百倍にして返してやる!!」


 アゼルの後方に大量の魔素が展開されいき、その中からひとつ、またひとつと鋭く尖った魔石が精製されていく。

 瞬く間にその数は百を超えて、その全ての照準がエミルに合わせられた。


「それじゃあイリア、行ってアイツの足止めしてこい。今までの借り全部まとめてぶち込んでやるよ。」



 流石のエミルもこれからイリアたちがとる戦略に気づいて笑顔が引き攣る。


「!? ちょっとそれはいくらなんでも、ズルいんじゃ?」



「お前には言われたくねーよ!」

「エミルさんには言われたくありません!」


 イリアとアゼルの心からの声が重なり、同時に二人が動きだした!

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