第8話 魔王の目覚め

 遠い、遥か遠い夢を眺めている。


 広い庭で遊んでいる一人の子供。

 それを少し離れた場所から、慈しむように男が見ている。

 

 その子供はたった一人、周りには一緒に遊ぶ仲間もいない。

 その子は特別過ぎて、同世代の子供たちと遊ぶことができなかった。

 いや、同世代と言わず、その子と遊べるような子供は国中を探しても一人もいなかった。


 持てる力が違いすぎて、同じように遊べば周囲を傷つけてしまうから。

 しかしそれなら、その子は特別だから大事にされていたのではなく、ただ危険だから周囲と隔離されていただけではないのか。


 10歳を迎えた時、その子供は戴冠たいかんする。大いなる責任をその両肩に載せてられて。

 子供を見守っていた男は、振り返ればもうどこにもいなかった。



 いや、初めからいなかった。

 これはただの夢だ!


 父上は俺の事なんて一度も見てなどいなかった。

 だから、俺が重責を背負って吐きそうな時も慰めてなどくれなかった。

 だから、俺が戦場で功績を挙げて帰ってきても褒めてなどくれなかった。


 だから、100年以上も王として踏ん張ってきた俺に、さらに重たい荷物を背負えなどと言えるんだ。 


 嫌だ。


 嫌だ。


 もう嫌なんだ。


 逃げ出したい。逃がして欲しい。どうか無様で弱い自分を許してほしい。


 怖い。


 怖い。


 今も遥か遠くから、強い眼差しが俺を見つめている。

 いつまで眠っているのかと。

 早く目を覚ませ。

 起きろ。

 


 どうかお願いです。

 僕はあなたのようになることはできないのです。

 僕はあなたのように在ることはできないのです。


 あなたになれない愚かな僕を、どうか、どうか、許してください。



 そんな見えない圧力から逃げるように意識は浮上していき……



 ゴツン!



 まるで、光の拳のような一撃で、また深い夢の底へと沈められていった。

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