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■ジェームズ・ティソ『静粛に』1875年頃 マンチェスター美術館


「静粛に」


深く考えるなら

静寂が好きだ


よくファストフード店でとか

会議とか


人が集まる所での

思考は苦手


あんまり考えたくない時は

雑踏に出る


目に映るもの


今一番の

懸案事項になる


何で

あの子は泣いているのかな?


あの車

どうしてあそこで路駐?


とても楽しい


ほら

演奏が始まる


■アントニオ・デ・ペレーダ『騎士の夢』1650年頃 王立サン・フェルナンド美術アカデミー


「救いの花」


ごちゃごちゃと

よくもまあ


天使も呆れ顔


片付かないし

片付けないままに


僕は眠るんだ


縦横無尽に

騒ぎ踊る

己とともに


あ、花が遠くに


■ゲオルク・アーヘン(デンマーク、1860〜1912)『リゼルントの古い城にある素晴らしき窓』(1903年)


「背中」


その人は

いつも

昔話の中にいた


生まれてすぐの私に

「かわいいな」を遺して


奉公に出て

他所の子供のために

働いて働いて


戦争には

身体的な話で行けず


好いた人と駆け落ちして

交通事故で亡くして


覚えてなくても

あなたの生き方は

考え方は

私の中に遺った


何度でも

思い出そう


■アンリ・ル・シダネル『夕暮れの小さなテーブル』1921年 大原美術館



「再会」


どんな話をしようか


教育を受けられなかった

あなた


奉公先で子を背に

カタカナと計算を

見様見真似で覚え


「2年だけでも行けたら」

そうこぼしていたと


私は18年も

学校に行かせて

もらったのに


全然役に立ちそうも

ないや


あなたは

「まあ、お茶でも」と


私に笑いかけるだろう


■アンリ・ルソー『滝』1910年 シカゴ美術館


「探検中」


幸せを見に行こう!


探検隊は

ジャングルを進む


数々の困難を乗り越え


つ、ついに!


あれ?

幸せって見えないんだね


■フランティセック・クプカ『赤い背景のエチュード』1919年頃 石橋財団アーティゾン美術館


「ココロへ」


おんなじもの


どう見える?


どう見ちゃう?


ココロはいつも


行ったり来たり


揺れては離れ


遠く来たのに


くっつきたがる


いつだって

思うようには

いかないね


自分のココロも


誰かのココロも


音が聴こえる



■アドリアーン・コールテ『野イチゴのある静物』1705年 マウリッツハイス美術館


「まだサンタは来ない」


近所の家の

道路と面した一角


苺がなっている


白い花が咲き


ようやく苺がなったのだ


苺で思うのは冬だけど


真夏に会えて

なんだか嬉しい


ショートケーキを

頬張るまでに


私は何ができるだろう




■E・フィリップス・フォックス『フェリー』1910-1911年頃 ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館


「残したいもの」


順番を守るだったり

交通ルールだったり

会話の仕方だったり

言葉の意味だったり


繰り返し

娘に教えるのは

ちょっと哀しい


これから起こる

悲観的な未来を

ちょっと想像してしまうから


少しでもそれが

助けになればと


でも

1番残したいのは

記憶の中の母の笑顔



■フィンセント・ファン・ゴッホ『蛾(グレート・ピーコック・モス)』1889年 ゴッホ美術館




「オオミズアオ」


子供の頃

田舎の祖父母の家で


夕暮れ時


納屋の橙がかった

電球の近くに


真っ白い蛾を見た


白くてとても大きくて


とても綺麗だった


1度きりだったけど

もう十分だった









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詩集 斜向かいの美術館 Aki @aki-----3

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