68.『ポタシクル』
「無事、なんとか抜けることができましたね。アリシアさんがいてくれて助かりました」
「いえ、そんな……でも、この首飾りは非常に効果的でしたね」
関所を無事に突破して、しばらく進んでから僕は口を開いた。
アリシアさんは、手に持っていた十字架の首飾りを大切そうに首にかけた。
「アリシアに感謝ですわ。それにしても、まさか本当に何かされそうになるなんて……怖いですわ」
フランさんが、ギュッと自分の身体を抱きしめて小さく震えた。
まぁ、あれだけ明確に危険な雰囲気を醸し出してたら、怖くなるのも無理はないかもしれない。
僕たちは力があるし、アリシアさんは聖女だけど、フランさんはいくら大商会の娘とはいえ、言ってしまえばただの平民だ。
彼らアルゴン帝国兵からすると、上からの命令があれば躊躇なくなんでもするはずだ。
――帝国領内では今まで以上に注意深くいないとな。
「フラン殿」
珍しくチヨメからフランさんに話しかけた。
「この旅の道中、いかなる時もお側を離れないとお約束します。なので、もし危険が迫ったとしても、必ずお守りします」
「チヨメさん……」
チヨメはフランさんをしっかり見据えてそう伝えた。
まさかチヨメが、怖がるフランさんを安心させるようなことを言うなんて……。
ただ単に護衛するだけでなく、これまでと違ってしっかりと相手を気遣うその姿に、僕は心の中で感動していた。
「嬉しいですわっ! チヨメさんからそんなことを言ってもらえるだなんて……きっと、これまでの努力が報われたんですわね! ついにデレ始めたのですね!?」
「? ……よくわかりません」
フランさんは心から嬉しそうな笑顔を浮かべていたが、チヨメにはどうやら意味が上手く伝わっていないみたいだ。
まぁ、フランさんの言っている意味は僕にはわかるし、実際その効果は出てるかもしれないね。
「それはそうと、フラン。この後は、帝都までの間に1つ街があるんだったかしら?」
「うふふ……え? あ、そうね」
アリシアさんの問い掛けに、チヨメの頭を撫でて愛でていたフランさんは適当な返事を返した。
「もう、しっかりしてよ。その街はあなたしか詳しくないんだからね」
帝都はチヨメもある程度把握してたが、これから通る街は特段詳しいわけでもないみたいだった。
ちなみにAOLではアルゴン帝国には行けないので、僕もまったくわからないし、実のところ新しい地域なのでワクワクしちゃってるのは内緒だ。むふっ。
「たしかにどんなところかちょっと聞かせてほしいですね。そこで少し休んでいくんですよね?」
「ええ、そうですわ。街の名前は『ポタシクル』、帝都に次ぐ大きさの街ですわ。そこから帝都まではそこまで遠くないですから、ポタシクルでしっかりと英気を養ってから出発する予定ですの」
「ここまで野宿だったから、宿で休めるのは助かるわ。どれくらいそこに留まるつもりなの?」
「そうですわね……最低でも2日、多ければ3日くらい休んでもいいかもしれませんわ」
旅の用意はモーリブ商会がしっかりとしてくれたのでそこまで不便ではないけど、こう……ずっと馬車移動で同じようなものを食べてると、さすがに飽きてくるし疲れは溜まってくる。
とはいっても、普通の旅人からすればこれでもだいぶ楽なはずなんだけどね。
「大きな街ですし、少し見て回ってもいいかもしれませんわね。ポタシクルを発ったら帝都はすぐですし、そこまで行ったら休む暇もありませんしね」
「アヤメとクイナには、離れている間に何かないか情報収集をさせます」
チヨメが自分から僕以外の人に意見を出したことに僕は驚いた。
これまでの彼女とは違い、意識が本当に変わったようだ。
「じゃあ、僕から後でリリスにも言っておくよ。眷属も加わればもっといろいろわかるかもしれないしね」
「ありがとうございます、お館様」
「うん、アヤメとクイナにもよろしくね。フランさん、よかったら街を案内してくれませんか? 僕も初めて訪れる街なので、ぜひいろいろ見てみたいです!」
もちろん僕はただ宿屋でぼーっと休むつもりなんてなく、この世界で初めて訪れる街なら、当然マップが埋まるまで隅々まで見て回りたい。
といっても、さすがにフランさんを引きずり回すわけにはいかないので、分別をわきまえた範囲で歩き回ってみたいのだ。
「ええ、もちろんいいですわ! 冒険者ギルドもありますから、他国のギルドに行ってみるのもいいかもしれませんわね。もっとも旅の途中なので、残念ながら依頼を受けてる時間はないと思いますけど……」
「あぁ、ギルドもあるんですね! それはぜひ見てみたいですねぇ。もちろん依頼は受けないにしても、どんなのがあるか気になるし……そうなると商人ギルドなんかも気になるなぁ」
「ふふふ、ソーコさんはこうやって旅するのが本当にお好きですわね。こんな時でもなければ、帝都もゆっくり見て回りたいですけれど……とってもいい街なだけに本当に残念ですわ」
「王国と帝国の関係が危険のない関係になったらいずれ……ですね」
「ええ……そうですわね。その時には、またこうやって一緒にご案内いたしますわ!」
フランさんが悲しそうな表情を浮かべたが、暗い雰囲気にならないようにすぐに笑顔に変えた。
僕は「ええ、ぜひ!」と、明るく答えたのだった。
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