69.訪問者

 僕たちはポタシクルの街に入り、まずは宿屋へと向かっていた。

 街に入る際には、ボロン王国から来たということで少し訝しまれたけど、アリシアさんのおかげで問題なく通ることができた。

 そして――、


「おぉ~、大きい街ですねー!」


 これまでAOLで見たことのない街並みに、僕は興奮して子供のように目を輝かせていた。

 なんたって、僕にとっては未開の地だ。

 今が特別な使命の途中で時間が限られていることはわかっているけど、もし許されるなら好き勝手走り回りたいくらいだ。


「ええ、これだけ大きな街はボロン王国でも王都を除くとないかもしれませんわ。ここはボロン王国と帝都を結ぶ中間の場所になるので発展してきたんですけれど……実際のところ、今回のことでボロン王国からの人はかなり制限されているので、恐らく経済的にはかなりの痛手になっていると思いますわ」


「なるほど、そうなんですね。国と国の争いで、そういうところにまで影響がでてしまってるんですね」


「一端の商人としては全くもって由々しき事態ですわ」


 憤るフランさんに、アリシアさんは「まあまあ」と宥めていた。

 早くこの問題を解決できれば、サポーターを探しつつ自由にまた旅もできるし、頑張らなきゃな。


「ここが今日泊まる宿ですわ! この街1番の宿で、アルゴン帝国に行商で訪れるときは必ずここに滞在してますの」


 僕たちを乗せた馬車は、周りでも1番大きな宿屋の前で止まった。

 見た目からしても高級感溢れていて、貴族なんかも好んで泊まりそうな宿屋だった。


「ようこそいらっしゃいました。モーリブ商会御一行様ですね。いつものお部屋をご用意しております」


 これまた教育の行き届いていそうな受付に、慇懃に頭を下げられ、僕たちは迎えられた。

 部屋は何人かで1部屋となっていたけど、まぁ当然、僕とフランさんとチヨメは同部屋だった。


「とりあえず今日と明日はゆっくりしますわ。今日は少し街にでも出て、明日は冒険者ギルドと商人ギルドに行くということでよろしくって?」


「ええ、もちろんです! 街にはすぐに行きますか?」


「うふふ、そんなに焦らなくても支度が済んだら行きますから、安心して寛いでいていいですわ」


 僕の逸る気持ちはフランさんに見透かされ、ちょっと子供みたいにはしゃいじゃったなと反省していると、


「――フラン様」


 扉をコンコンと叩く音とアメリシアさんの声が外から聞こえた。


「……私が出ます」


 チヨメが扉を開け、アメリシアさんを中に招き入れた。


「フラン様、アリシア様にお客様が見えました」


「アリシアにお客様?」


 フランさんは小首を傾げて聞き返すが、そのうちに「ああ!」と大きく頷き、


「もしかして……ポタシクルに入る時に、アリシアが聖女だと明かしたからですの?」


 と、アメリシアさんに聞いた。


「仰る通りかと思われます。この街の領主の使いの方が「アリシア様に会いたい」と来られたのですが、今回はアリシア様はモーリブ商会に同行するという形をとっていますので、フラン様に判断を仰ぎに来た次第です」


「そうですわね。アリシアはどこにいるのかしら?」


「セラフィ様と自室にてお待ちしております」


「わかりましたわ。さすがに領主の使いを追い払うわけにはいきませんし、アリシアも連れて1度会ってみることにしますわ。まぁ、まず間違いなく挨拶だけで終わることはないと思いますけど……」


 フランさんの言うように、きっとただ単にここで終わる挨拶などではなく、領主がアリシアさんに会いたいということくらいはさすがに僕でもわかった。

 アリシアさんと領主だったら立場は全然アリシアさんのほうが上だけど、モーリブ商会が領主に逆らえるわけもないので、フランさんは「しかたなく……」といった顔をしていた。


「あ、フラン」


「アリシア、待たせましたわね」


 フランさんとセラフィは、僕たちが来るのを廊下に出て待っていてくれたようだ。


「ごめんね、フラン。まさかこんなことになるなんて思ってなかったから……首飾り、出さないほうがよかったのかなぁ」


「しかたないですわ。どの道関所で聖女が入国したということは早馬で伝えられるでしょうし、遅かれ早かれ……ですわ。とりあえず、お会いしてみますわよ」


 僕たちは階段を降りて1階のホールに向かうと、1人の執事っぽい男性が深く頭を下げた。

 言われなければ、この宿屋の受付と間違いそうな見た目と所作だ。


「お待たせいたしましたわ。私、モーリブ商会のフランと申しますわ。この商隊のまとめ役ですの。そして、こちらが聖女のアリシアですわ。訳あって、今回の行商旅に同行していますの」


「これはこれは、私、ポタシクル領主である『ニック・クリプトン』伯爵の使いである『アンドレ』と申します。今回、聖女様がこの街にお越しになられたと聞きまして、ぜひ領主館でおもてなしをさせていただければと――」


 予想通りの展開となった。

 最初は断りを入れるように遠回しに遠慮したが、アンドレさんの必死の説得によって最終的にこちらが折れ、明日の夜にもてなしてもらうことになったのだった。


 ―――――――――――――――――――――――

【あとがき】

 お読みいただきありがとうございます!


 新作の投稿を始めました!


【異世界のサバゲーマー 〜転移したおっさんは国を救うために『ミリマート』で現代兵器を購入して無双します〜】 https://kakuyomu.jp/works/16817330666519735772


 ぜひ1話だけでもいいので読んでみてください!


 また、今後も面白い作品を書いていくので『作者フォロー』もよろしくお願いいたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る