64.ごめんね

「えーと、アルゴン帝国への行商の旅なんだけど、ここにいる誰かはここに残ってもらおうと思うんだ」


 テッドさんたちと今後の計画を話し合った後、僕はサポーターたちと一緒に計画の詳細を詰めることにした。


「ソーコ様……それは別行動を取るということでしょうか?」


 おずおずと聞くアンジェに僕が「うん、そうだよ」と答えると、


「主様、絶対に私は離れたくないですわ! アルゴン帝国までお供しますわ!!」


 リリスが慌てたように言うと、それに追従するかのように他のサポーターたちも僕にその意思を表示してきた。

 まぁ、なんとなくわかっちゃいたけど、そう簡単には決まらないよなぁ。


「でも、なんで誰かが残らなきゃいけないんですかい?」


 ネオンが素朴な疑問を口にする。


「あぁそれは、アルゴン帝国はモーリブ商会を潰したいわけでしょ? チヨメが送り込まれたのもそのためだし、もしかしたら僕たちがいなくなったあとにそういうことがあるかもしれない。もちろん、ないならないでそれに越したことはないんだけど、一応警戒しておかないとね」


「あー、なるほど。そのために戦力を少し残しておくっていうわけっすね」


「そゆこと。まぁ可能性としてはそんな高くはない気もするし、危険度はアルゴン帝国へ行くほうが高いと思うから、そっちの戦力を多くするつもりだけどね。それに、そうしたほうがテッドさんたちも安心するだろうしね」


 今回のことでかなりの迷惑と不信感を抱かれてるかもしれない。

 それを払拭するために、こちらから誠意を見せることは必要不可欠だ。


「あの、どのようにして決めるのですか?」


「それなんだよねぇ……。そういえばフェルはさっきアルゴン帝国行きに立候補してなかったけど、こっちに残りたい感じなの?」


 サポーターたちは全員が我先にとアピールしてたけど、フェルだけは後ろであわあわと何か考えているみたいだった。


「いえその、もちろんソーコさんたちと一緒に行って力になりたいんですけど、フェルの力じゃここにいる皆さんの足元にも及ばないので……」


「フェル……」


 アンジェ、リリス、セラフィ、チヨメ――彼女たちはEXRエクストラレアで、たしかにフェルよりも強く、なんなら今の僕よりも強いだろう。

 それにネオンだって、URウルトラレアで冒険者としてはここにいる誰よりも高いAランクで、ステータス的にはEXRエクストラレアに匹敵するほどの力を身につけている。

 そう考えれば、たしかにフェルの実力は一段劣ってしまうところだ。


「あっ、気にしないでください! フェルはここでしっかりとお役目を果たしますのでっ。……だから、これからはもっともっと強くなって、いつかはフェルも連れて行ってもらえるように頑張ります!」


 きっと悔しさとかもあるだろうに、フェルは気丈にも笑顔でそう宣言した。


「ありがとう、フェル。君がテッドさんたちを守ってくれるなら安心だよ。帰ってきたら、もっと強くなるためにダンジョンとかも行ったりしようね!」


「は、はい! よろしくお願いします!」


 フェルは顔を輝かせて返事をした。

 他のサポーターを探すためにも色々な場所に行かなきゃいけないだろうし、そのついでにダンジョン巡りやいろんな討伐依頼をこなしたりするのもいいかもしれないな。


「これで1人……主様、あと何人必要かしら?」


「んー、そうだなぁ。少なくともあと1人、さらにもう1人いれば完全に安心できるんだけどね。あっちでも戦力は必要だろうし……迷いどころだねぇ」


 EXRエクストラレアなら残すのは1人でもいいかもしれないけど、誰を残せば1番上手くいくか考えなければいけない。


「……主様、私は眷属がいっぱいいますから、きっとアルゴン帝国でもお役に立てますわ!」


「あ! ずるいのです! リリスが抜け駆けしようとしてるのです!」


「別に抜け駆けじゃないわよ? 事実、私の眷属がいればチヨメの配下の子たちを探すのに役立つじゃないの」


「ぐぬぬ、それはそうかもしれないのです……」


 リリスの言い分に、セラフィは悔しそうな顔で認めていた。

 でも、それはたしかにそうかもしれない。

 ネオンやチヨメの情報を集めたのはリリスの眷属だし、その眷属たちをコントロールできるリリスがいるのはありがたい。


「待ちなさい。眷属を操れるのは別にあなただけではないでしょう。あなたがソーコ様に眷属を預け、ここに残ることも可能なはずです」


「え、そうなの?」


「ちょ、ちょっと、アンジェ!」


「ソーコ様、リリスの眷属もチヨメの配下の者たちも、すべてソーコ様に従属しています。ソーコ様の指示に従わぬ道理などありません」


「へー、そうだったんだ」


 AOLではサポーターの下につく者たちを操ることはできなかったけど、ここではどうやら違うみたいだ。


「たしかに主様でも指示を出すことは可能ですけど、眷属たちの特性や情報収集の方法などは私のほうが熟知していると思いますわ。だから主様と一緒に行ったほうがいいですわ!」


「まぁそれはそうだね。どちらかが何かあるときも考えて、指示できるのが2人いてもいいだろうし。チヨメはフランさんをお守りする役目があるから確定だね」


「はい、わかりました」


「セラフィもアリシアさんと一緒にいた時間が長いし、彼女も安心するだろうから一緒に行こうか」


「わーいわーいなのです! 勝ち組なのです!」


「勝ち組って……あー、この後で言いにくいんだけど……まずは、ネオン」


「姐御……」


 ネオンは悲しそうな目で僕を見た。

 うん、もうわかってるみたいだね。

 ごめんね、ネオン。


「ごめんだけど、フェルと一緒にここに残って守って欲しい」


「うす……」


 あからさまにしょんぼりとするネオン。

 彼には申し訳ないけど、誰かがやらなきゃいけない役目だ。

 そして――。


「ソ、ソーコ様、あの、私は……」


 アンジェに関しては非常に迷った。

 連れていけばEXRエクストラレア4人なので、これ以上ないくらいの最高戦力だ。

 でも、当然こっちは薄くなるし、1人でもEXRエクストラレアがいれば安心できる。

 だから――。


「……ごめんね、アンジェもこっちでお願い」


 僕は、アンジェがガクリと膝から崩れ落ちる姿を初めて見るのだった。

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