53.再会と帝都

 ソーコたちが王都に着いた頃、チヨメは街を歩いていた。

 軍の動きを掴むため、軍事施設のある場所へ向かっているのだった。

 その途中、市場にある通りがかった道具屋の前で立ち止まった。


 ――懐かしい……。


 そこはAOLではお馴染みのプレイヤー御用達の道具屋で、当然ソーコ(ミスト)も来ることがあった。

 チヨメが初めて王都に来た時、ミストはチヨメたちEXRエクストラレアの4人にアクセサリーを買ってくれたのだ。


 ――今はもうない。お館様が持ってるはず。


 道具屋で買えるアクセサリーは能力的に優れているわけではないので、ある程度やり込んだプレイヤーにとってはすぐにお払い箱になっていた。

 ミストもそうであったため、チヨメは気に入っていたが、今は別のアクセサリーをつけていた。


「……またつけたい」


「何をつけたいのです?」


「――!」


 チヨメは思わぬ声に飛び退り、いつでも戦うと逃げるを選択できる態勢に移行する。

 しかし、目の前にいる輝くような金髪のツインテールを持つ少女は、チヨメにもよく知っている少女だった。


「セラフィ……?」


「はいなのです! 久し振りなのです!」


 セラフィは喜びを爆発させるように、チヨメに抱きついてきた。


「……苦しい」


「わぁ、ごめんなさいなのです! まさかチヨメにこんなところで会えるなんて思わなかったのです」


「あなたこそここで何してるの」


「セラフィは聖女さま――じゃなくて、アリシアの護衛をしてるのです!」


 聖女様とチヨメにはばっちり聞こえていたが、セラフィは隠し通せたと思っているのか、腰に手を当てて威張っていた。


「……何を偉そうにしてるの。あなたの役目は親方様を探すこと。それ以外にない」


 チヨメはセラフィの両頬を指で引っ張って、ムニムニとお仕置きする。


「い、痛いのですぅ……やめるのです! でも、懐かしいのですぅ……」


 チヨメとセラフィは真逆の性格であったが、チヨメはセラフィを出来の悪い妹のように思っていて、こうしてよく叱っていた。


「あうぅ〜、ほっぺたがじんじんするのです……」


 チヨメが指を離すと、セラフィは涙目で頬をさすった。


「セラフィは言われたことをすぐ忘れる。こうして思い出させてあげただけ」


「もっと優しく教えてくれればいいのです……」


 セラフィが口を尖らせてボソリと控え目に抗議する。


「……何か言った?」


「な、なんでもないのです!」


 チヨメがこうしたセラフィとのやり取りを懐かしく思っていると、


「もー、セラフィったら……すぐいなくなっちゃうんだから――あれ? その子は誰?」


 セラフィと同じ金髪で、チヨメには少し歳上の女性に見えた。


「チヨメなのです! セラフィの仲間なのですよ!」


「仲間? お友達ってこと?」


「チヨメはお友達なのですか?」


「……違うけどそれでいい」


 説明するのも面倒だと思い、チヨメは肯定した。

 その女性は優しくほほ笑みを浮かべ、


「まぁ、そうだったの。私はアリシア、ちょっと用があって初めてこの国を訪れたのよ。あなたはチヨメちゃん……でよかったかしら?」


「……そう」


 対するチヨメは、無表情で端的に返事をした。


「よかったら一緒に食事でもどうかしら? セラフィのお友達なら、ぜひ私も仲良くしてほしいわ」


「……私は――」


「それがいいのです! チヨメも一緒に行くのです!」


 チヨメは1度は断ろうとするものの、ニコニコと嬉しそうにはしゃぐセラフィを見て、


「……わかった」


 しかたなく付いていくことにした。


「よかったのです! さぁ、どこに食べに行くのです? セラフィはですね――」


 楽しそうにするセラフィを先頭に、3人は店を探すのだった。



 ◆◇◆



 ――アルゴン帝国 帝都レガス


「ふん、こうもゴチャゴチャしているとウンザリしてくるな」


「仰るとおりです、ダーム様」


 ダームは箱庭テルルとは違う帝都の雰囲気に、ため息を付きながら吐き捨てた。


「ボーリよ、この国の宰相――ミーンと言ったか、そいつとはいつ会うのだ?」


「はっ、本日は宿で疲れを癒やしていただき、明日夜に密会する手筈になっております」


 ボーリは慇懃に頭を下げる。


「やれやれ、たかだか人間風情が偉そうにこの私を呼び寄せるとはな……舐められたものだ」


「まあまあ、これでダーム様の目的を果たすのが早くなるならいいじゃないですか」


 軽薄そうなエルフの言葉に、ダームは眉を顰める。


「ふん、別にそいつに協力されんでも我々は長寿の種族なのだ。いずれは達成することができる。ゲルマよ、貴様こそ目的は達成したものの、邪魔者に苦戦したと聞いたぞ?」


「いやぁ、さすがにアレはちょっと分が悪かったんですよ。一応忍び込んでいたわけですし、派手にいけませんからね。ま、でも、次にあったらちゃんとケジメはつけますよ」


 ゲルマはあっけらかんとした様子でダームに答えた。


「おい、ゲルマ! ダーム様に向かってなんて態度を取っているのだ!」


「よい、コイツは昔からこういう奴だ。それより腹が減ったな」


 旅の間は日持ちする食料のため、量も少なく味気ない。

 そろそろ昼近くなこともあり、見た目に反して大食らいなダームは先ほどから腹が鳴っていた。


「はっ、では帝都にて評判の店にご案内します」


「うむ」


 ダームたち3人は、ボーリのオススメの店へ足早に向かうのだった。

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