54.涙と覚悟
「ふぅ~、もうお腹いっぱいなのですぅ……」
見るからに膨れた腹をさすりながら、セルフィは幸せそうな顔を浮かべた。
その小さな体のどこに入るのかというほど、1人で何人前も平らげてしまった。
ちなみに、チヨメも見た目以上に食べるので、黙々と3人前は食べていた。
「あなたたち、すごい食べるのね……ふふ」
アリシアは2人を呆れたように見ながら笑った。
彼女だけは普通の量を食べていたのに、テーブルの上にはたくさんの空いた皿が載っているので、他から見たらアリシアまで大食いのように見えた。
「チヨメに久し振りに会えたので、楽しくなっちゃったのです。チヨメも楽しいですか?」
セラフィがデザートのケーキを食べているチヨメに聞く。
「……おいしい」
「セラフィは楽しいかきいたのですけど……まぁ、きっとチヨメも楽しいに決まってるのです」
「……どうして?」
「だってセラフィに会えたのですよ? そうに決まってるのです!」
ふふんと、セラフィは薄い胸を張る。
「私は……お館様に会いたい」
「がーん。セラフィのこと無視されたのです! でも、セラフィもご主人様に会いたいのです……」
見るからにしょんぼりとする2人を見たアリシアは、
「そのお館様とかご主人様って誰なの?」
と、疑問を口にした。
「そういえばアリシアには言ったことがないのです。セラフィたちにはご主人様がいるのですよ?」
「……私にとってはお館様。とっても大切な人」
いまいち要領を得ないアリシアだったが、2人の表情と言葉に、いかに大切な人だったかということは伝わってくる。
特にチヨメは、寂しいような悲しいような表情を浮かべ、彼女の中でいかに大きな割合を占めているかが見て取れた。
「そうなのね。その人はどんな人なの?」
「強くてすごいのです!」
アリシアの質問に、セラフィが元気いっぱいに答える。
「そ、そうなのね」
「……お館様はセラフィの言う通り、時にかっこよく、時に可愛らしい人――」
チヨメがセラフィの言葉を補足するように説明してくれる。
「――誰よりも強く、なににも負けない……私の最愛……あれ?」
チヨメの目から涙が溢れ、テーブルにぽたぽたとこぼれ落ちる。
「チヨメちゃん!?」
「チヨメが泣いてるのです……!? アリシアが泣かせたのですっ!」
「え、えぇ!? そんなつもりじゃ――ご、ごめんなさい……」
セラフィに責められたアリシアは、何気なく聞いたつもりだったがその一言がきっかけでチヨメが泣いてしまったと思い、慌てて謝った。
セラフィはチヨメの頭をよしよしとなで、
「もう大丈夫なのですよ。セラフィがしっかり叱っておいたのです!」
自分の手柄をアピールするように強調した。
「うぅ……悪かったわよぉ……」
「おー、よしよしなのです。セラフィにたっぷり甘えるといいのです」
「……調子に乗らない」
チヨメはパシッと頭をなでていたセラフィーの手を払いのける。
「あぅ! 何をするのですか!?」
「……セラフィのくせに生意気」
「むむむ……! ……さっきまで泣いてたくせになのです」
セラフィがボソッと小さな声で反撃する。
「……泣いてない」
「へ?」
「私は泣いてない。あなたの見間違え」
「んな!? む、無理があるのです……」
チヨメは何事もなかったかのような顔で否定した。
「アリシアは見たのです!?」
「ま、まぁまぁ、落ち着いて。それよりもそのお館様っていう人がどこにいるかわからないの?」
「アリシアにまで流されたのです……」
セラフィがショックを受けた顔をするが、
「セラフィにとっても大切な人なんでしょ? なら、あなたにとってのご主人様を見つけたほうがいいんじゃないの?」
「……確かにそれもそうなのです!」
アリシアの説得にあっさりと納得した。
「……でも、セラフィもアリシアに会うまではずっと探してたけど、全然見つからなかったのです」
「……あなたはどうやって彼女と出会ったの」
「お腹が空いて倒れてるところを、アリシアが助けてくれたのです! ご飯をいっぱい食べさせてくれたのです!」
「……」
セラフィの返答に、チヨメは呆れて何も言えなくなってしまった。
当の本人は悪びれもなく「どうかしたのです?」と、聞いてくる始末だった。
チヨメは「なんでもない」と返し、
「……お館様に繋がるかもしれない情報がアルゴン帝国にある」
「アルゴン帝国?」
「……そう。錬金術師に関する資料があると思われる」
少しでもなにか知ってればとアリシアにも説明する。
「でも、錬金術師ってもういないんじゃ――」
「――お館様は錬金術師」
「――!」
チヨメの言葉にアリシアの表情が変わる。それは驚きと緊張が混じった顔だった。
「それは……本当なの?」
「嘘を付く意味がない。あなたにも何か知ってることがあるのなら教えて欲しい」
藁にも縋る思いでチヨメは尋ねる。
「ごめんなさい、錬金術師についてはわからないわ」
「……そう」
残念ではあるが、知らないのならしかたあるまい。
チヨメは、やはり計画を実行することが1番の近道かもしれないと、決心する。
「……方法はある。私はそれを実行する」
「何をするのです?」
「……あなたは知らなくていい」
「ムキィーッ!」
アリシアは怒るセルフィを尻目に、チヨメが覚悟を決めた目をしているのが気になるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます