52.歓待の宴
「これはまたなんというか……」
今、僕の前には巨大なお屋敷と、ズラッと並んだ執事とメイドたちがいた。
アメリシアさんによると、フランさんはモーリブ商会の跡取り娘で、そのモーリブ商会はこのボロン王国では1、2を争う大商会のようだ。
――あれ? これ僕の目的を達成できるのでは?
そんな気がしたが、まずは歓待を受けてから折を見て話そうと決めた。
「フランさん、それではうちはこれで」
「あれ? エドガーさんたちは来ないんですか?」
僕は、帰ろうとするエドガーさんに尋ねた。
「俺たちはこの後ギルドに報告しに行かなきゃいけないんだ。それに、家で帰りを待ってる家族がいるやつもいるし、ここらでお暇させてもらうよ」
エドガーさんたちは、そう言って屋敷を出て行った。
「さあ、それでは行きましょう」
「「おかえりなさいませ、お嬢様」」
僕たちは、執事とメイドが両脇に並んで作る花道の真ん中をフランさんの後ろにくっついて進んで行った。
こんなに大勢の人に頭を下げられるとなんだか恐縮しちゃうね。まぁ、僕に下げられてるわけじゃないけど。
屋敷の大きな扉が開き、
「おお、フラン! 無事に戻ったか! よかったよかった……父は心配で心配でしかたなかったぞ」
「ただいま戻りましたわ、お父様。ええ、この方たちのお陰で無事に戻ってこれましたわ」
フランさんが僕たちを父親に紹介する。
「初めまして、ソーコです。フランさんとはたまたま王都に向かっていた中で会いまして……」
「野盗に襲われてるところを、みなさんが救ってくれたのですわ!」
「なんだって!? 大丈夫だったのか!?」
『野盗に襲われて』という言葉を聞いたフランさんのお父さんは、血相を変えてフランさんに確認する。
「ええ、無事でしたわ。みなさんとてもお強いんですのよ? そこからはここまで護衛も引き受けてくださって、とても安心できましたわ」
「おお、そうか! とにかく無事でよかったわい。これは何かお礼をしなければいかんな」
「その通りですわ! テッド・モーリブの名にかけて、最高のおもてなしをいたしましょう!」
こうして僕たちは最大級の歓待を受けることになった。
◆◇◆
「ほう、なるほど。ソーコ殿たちはアルゴン帝国に渡りたいのですな」
「はい。僕たちの仲間がいるかもしれなくて、そのツテを探してたんです。へリニア冒険者ギルドのサブマスターであるセレンさんからそれが1番可能性があるとお聞きしたもので……」
「ふむ」
僕たちは広い広間のような場所で、ゆったりとした時間を過ごしていた。
今までは、それはもう本当におもてなしをしてもらっていた。
音楽やら踊りやら豪勢な食事にお風呂……。
お風呂ではフランさんが飛び入り参加してきて、またそれも大変だったね。
まぁ……不満なんてあるはずもないんですけどね!
「お父様、それでしたら次のアルゴン帝国への商隊は私にお任せくださいな」
「そ、それはいかんぞ! 今のアルゴン帝国は不安定だし、お前は今回初めて商人として務めを果たしたばかりだろう? なぁ、リリアン?」
「そうですわね。フラン、あなたはまだ若いし、それに商人よりも婿を取ることを考えなくちゃいけないわ」
フランさんのお母さん――リリアンさんは、夫のテッドさんと一緒にフランさんを説得した。
「お母様、その話はこの旅の前にお話は終わりましたわ? まずは、私が商人として一人前になることが先のはずですわ。お父様、一人前の商人は儲けのチャンスを逃したりしませんわ。このアルゴン帝国への行商旅は、ソーコさんたちとも繋がりを持つ重要なものだと私は捉えていますの」
「うむぅ……」
「そうねぇ……」
テッドさんとリリアンさんは、フランさんのの勢いに頭を悩ませてるようだ。
僕としてもアルゴン帝国には行きたいので、フランさんには頑張って欲しいところだ。
「ふぅ……わかったよ、フラン。ただし、ソーコ殿たちを信用してないわけではないが、他にも護衛のパーティーは付けさせてもらうぞ?」
「あら、ソーコさんたちだけで十分ですわ! 他に人が増えますと、それでは私たちの仲が深く……」
最後の方はゴニョゴニョとよく聞き取れなかった。
まぁ、僕たち的には多いほうがフランさんを安全に守れるので、テッドさんの意見に賛成だ。
「僕たちは構いません……というか、むしろその方が全員安心できるでしょうし、僕としては賛成です」
「おお、それはよかった! よいか、フラン?」
「うぅ……わかりましたわ。ここがお互い譲歩の限界ですわね、ふふ」
「そういうことだな、ははは」
商人としての駆け引きを親子で出来たのが嬉しかったのか、2人は上機嫌で笑いあった。
その後僕たちは、アルゴン帝国の行商旅まで少し時間があるので、その間お屋敷に泊めてもらえることになった。
個室をそれぞれ与えられて、アンジェとリリスは反対してたけど、「郷に入っては郷に従え」と2人を説得した。
久し振りに、今日は1人でゆっくり寝ることができそうだ。
◆◇◆
「聖女様ー、こっちこっちなのです!」
「ほらほら、そんな慌てないで。あと、公式に来てるわけじゃないからその呼び方はダメよ?」
「あー、そうでした!」
少女は金色に輝くツインテールを揺らしながら、楽しそうに返事をした。
「えーと、それじゃあ何て呼ぶのです? アリシア様? アリシアちゃん? それとも〜」
「アリシアでいいわよ?」
アリシアにそう言われた少女はパアッと顔を輝かせる。
「アリシア!」
「はいはい。ふふ、まったく子供みたいね。――あなたは変わらずそのままでいて欲しいわ」
アリシアは少女の頭を優しく撫でる。
「えへへ、くすぐったいのです!」
「ふふ、さぁお買い物の続きにしましょ? ――セラフィ」
「はいなのです!」
金髪の少女――セラフィは聖女アリシアとともに、王都の雑踏に紛れるのだった。
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