42.吉報
「セバス、カミラ」
「「はっ、リリス樣」」
リリスが呼び掛けると、2羽のコウモリがセバスとカミラに変身した。
気付かなかったけど、いつの間にか2人も来てたみたいだ。
「その男どもを衛兵に引き渡してきなさい。アンジェが連れてきているはずよ」
「「はっ!」」
セバスとカミラはヤンとダンを抱えると、2階の窓から飛び降りてってしまった。
アンジェも来ているのか、さすが手際がいいな。
きっと、フェルがアンジェとリリスをちゃんと呼んできてくれたんだろうね。
僕はリーリのもとに駆け寄り、
「リーリ、大丈夫だった? 怪我はしてない?」
と、声をかけた。
「うん、 大丈夫だよ。ありがとう、ソーコお姉ちゃん」
リーリがそう言って、僕に抱きついてきた。
少し身体が震えている。
きっと、すごい怖い思いをしたに違いない。
僕はリーリの頭をしばらくの間優しく撫で、
「どう? 少しは落ち着いた?」
「うん!」
リーリはいつもの笑顔で頷いた。
うん、リーリはやっぱこっちの表情のほうがいいね。
「それじゃあ、女将さんも心配してるし宿に戻ろうか。リリス、先にリーリを連れてってもいい?」
「かしこまりましたわ、主様。あとのことは、アンジェと私にお任せください。フェルにも宿に行くように伝えておきますわ」
「うん、ありがとう。お願いするね」
僕はアンジェとリリスに任せることし、一足先にリーリを宿に連れて行くことに決めた。
女将さんもリーリもお互い早く会いたいだろうし。
「あ、そうだ。リリス、これを」
僕は中級ヒールポーションを10本ほど取り出し リリスに渡した。
特級にすれば、あの脚を斬ったやつも元に戻るだろうけど、それはそれで目立ち過ぎるだろうから自重しよう。
「広場にいるゴロツキどもが大怪我しているようだったら、これを飲ませてあげて」
「お優しい主様ですわ。悪いのは相手なんですから、ここまでしなくてもよろしいですのに」
「まあそうなんだけどね。でも、脚とか斬っちゃったりしたし、そのまま死んじゃったりしたらさすがにちょっとねぇ……だから、本当に危ない怪我をしているやつだけに使って」
僕はそうリリスに言い残し、リーリと一緒に宿屋に向かった。
「ただいま!」
「リーリ!」
リーリの元気な声を聞いた女将さんが、奥のほうから飛び出してきてリーリを抱き締めた。
「よかったよ、無事だったかい?」
「うん! ソーコ姉ちゃんが助けてくれたの」
「本当にありがとうね。いったい何があったんだい?」
僕はこれまでの経緯を 女将さんに話した。
「そう、そんなことがあったんだね……。とにかく無事で良かったよ。ソーコちゃんたちには、いっぱいお礼しないとね」
「夕ご飯、楽しみにしてますね」
「ああ、約束通り腕によりをかけて作るからね。楽しみにしていておくれ!」
女将さんはドンッと胸を叩いて、リーリと一緒に厨房に戻っていった。
しばらくするとフェルが宿に来て、事の顛末を教えてくれた。
ヤンのホーム『ルーラーズ』は、僕みたいな薬師を拉致したあと、監禁状態にしてポーションを作らせてたらしい。
後日、今回の事件について聴取されてわかったことだけど、『ルーラーズ』のハウスでは数人の薬師がそういう状態だったみたいで、当然他のメンバーも捕まったようだ。
――つまり、僕も一歩間違えればそうなっていたってことか……。
改めてこの世界では、これまで暮らしてたような安全さはないんだなと実感した。
――今回は問題なかったけど、もっと気をつけなきゃいけないな。
その後は、アンジェとリリスが戻ったところで、女将さんとリーリによる特別な料理な振る舞われた。
味はもちろんおいしいし、たくさんの料理もあって、とっても楽しい時間だった。
今度はリーリを僕のハウスに招待すると伝え、その場はお開きになった。
◆◇◆
――オガネ大森林
「――ダーム様」
日は完全に沈み、食事も済ませて、あとは寝るまでのゆったりとした時間。
ダームはこのひと時がもっとも安らげる時間であったが、暗闇からの声に現実に引き戻され、目を開けた。
「……なんだ?」
つい、不機嫌な声が出てしまった。
「ボロン王国のハイドニアにいる間者より報告がありました。『ルーラーズ』が壊滅したようです」
「なに?」
『ルーラーズ』はダームの手足となって動くいくつかあるホームの1つで、今後の企みにも関わってくる存在だった。
それが壊滅したとなると、ダームとしても看過できることではない。
「『ルーラーズ』が、薬師を監禁して強制的にポーションを作らせていたことがバレてしまったようです。マスターのヤン以下、配下の者も全員捕まったと――」
「愚か者めッ!!」
ダームの怒鳴り声が家の中に響く。
「どれだけの時間と手間を掛けたと思っているのだ! 愚図め、所詮はただのエルフか。我らハイエルフとは似て非なる者だな」
「はっ、仰るとおりです。して、始末はいかがいたしましょうか? 今のところ、背後に我らがいることまではわかっていないようですが……」
「聞くまでもあるまい?」
「はっ、失礼しました」
闇にいる者は慇懃に頭を下げる。
「……しかし、なぜ表沙汰となったのだ。やつらもやつらなりに、これまでは上手くいってただろう?」
「どうやら新しい薬師を拉致しようとして、間違えて別の人物を攫ってしまったようです。その薬師は冒険者でもあるようでして、攫われた者を助けにきて壊滅に追いやったと……」
ダームはその報告を聞いて、深く大きなため息をついた。
「マヌケ過ぎて言葉も出んわ。だが……その薬師は気になるな。調べさせよ」
「はっ、承知しました」
闇にいる者の気配が消えた。
「まったく……聞くに堪えん報告だ」
ダームはひとりごちり、また目を閉じたのだった。
◆◇◆
「主様、ご報告がありますわ」
「ん?」
事情聴取から数日後、朝ごはんの前にリリスがそう言ってセバスを呼んだ。
「主様にご報告を」
「はっ。主様、隣領の街『へリニア』にて、『ネオン』様が冒険者をしていると報告がありました」
「え、ネオン?」
ネオンとは、僕のサポーターの1人だ。
サポーターの中では数少ない男キャラで、オラオラ系なんだけど、憎めないキャラをしてるんだよなぁ。
ランクも
「へー、冒険者やってるんだ。それじゃあ、へリニアならそんな遠くないし、これから会いに行ってみようかなぁ」
へリニアは、AOLではハイドニアの次に訪れる街だ。
今日にでもネオンに会えるかもしれない。
「主様、もう1つご報告があります」
「なーに?」
僕はこっちが本命なのかなと思いつつ、セバスに聞き返す。
「――チヨメ様の居所がわかったかもしれません」
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