36.魔法対決
フェルの資格試験は、無事に合格となったみたいだ。
事前に勝敗だけで決めるわけではないとギルマスは言ってたし、負けちゃったけど一定の評価はしてもらえたのかな。
――あー、よかった……とりあえず一安心。
大丈夫、大丈夫と本人には言ってたけど、多少なりとも不安だったしね。
アンジェやリリスみたいに高レベルなら落ちることなんてまずないだろうけど、残念ながらフェルはまだそこまでの域に達してないし。
単純な勝ち負けじゃなくてよかったよ。
「おっと、そうだ。ところで、ソーコ」
「はい?」
合格したフェルの頭をイイコイイコしていると、ギルマスが思い出したかのように、
「あれって――上級ヒールポーション、だよな?」
――え? あ……や、やってしまったああぁぁっ!!
そういえば、フェルの傷を一刻も早く治したくて、適当にランクが高いものを取り出しちゃったんだった。
あちゃー、しまったなぁ……結構気を付けてたんだけどなぁ。
「えーと……はい、師匠が作ったものです」
「ほう。上級であれば、骨を折ろうが内臓の損傷だろうが治るだろうが。――にしても、ずいぶん景気がいいな。上級じゃなくても十分だったんじゃないか?」
うぐっ……いやまあ、ずばりおっしゃる通りなんだけどもね。
「慌てちゃって、たまたま掴んだのが
テヘペロッと中身が空になった瓶を、チラッと見て答える。
まあ適当に取ったのが、特級や神級じゃなくてよかったということにしておこう。
「間違えてって……買うと白金貨10枚くらいするっつーのに」
ギルマスが気の毒そうな目を向けてくる。
「そそ、そんな高価なものををを――!?!」
白金貨10枚という金額に驚いて、ブルプルと小刻みに震えている。
かわいい、なでなで。
しかし、上級ってそんなに価値があったんだ。
「気にしなくていいよ。取り違えた僕が悪いんだしね。それに、ポーションよりもフェルの方が大事なんだから」
「ソ、ソーコさん……!」
瞳をうるうるとさせるフェル。
後ろではアンジェとリリスが、「私もそんなセリフ言って欲しいです……!」とか「私も腕を折って負けようかしら?」なんて言ってる。
まったく……ま、実際のところ、上級ヒールポーションなんて簡単に作れるしね。
フェルと比べるまでもないさ。
「ガッハッハ、ちびっこいくせに、なかなかデカイ器してるじゃねぇか!」
「もうっ! 元はと言えば、マスターが原因なんですからね!」
ほっ、どうやら上級についてはこれ以上詮索されなさそうだ。
……ここが商人ギルドだったらやばかったかもしれないけど。
「さて、それじゃあ次にいくか。エリー、リリス、2人とも準備はいいか?」
「あぅ、本当にやるんですか? 今の私は受付嬢なのに……」
「いつでもいいわ」
エリーさんとは対照的に、余裕の表情で返すリリス。
一応、やり過ぎないように釘を差しとかないとな。
「リリス、わかってると思うけど、怪我をさせちゃダメだからね? あくまで試験なんだから、強い魔法も禁止。出来るだけサクッと傷つけないように、ね。頼んだよ?」
「わかりました。主様のお頼みとあれば、どんな困難な道であろうと従わないわけにはいきません。『サクッと傷つけないように』ですね。おまかせください」
うんうん、リリスなら安心だ。
僕のお願いにも無難に応えてくれるだろう。
「ほら! いいからさっさとしろ! さぁ、弓と矢だ。――リリス! こいつは弓がメインで、魔法はその次なんだ」
「構いませんわ。お好きな武器を使ってくださいな」
「うむ、助かる。ほら、許可が出たぞ。シャンとしろ」
「はあぁ……」
エリーさんは憂鬱さを隠そうともせず、渋々といった感じで弓矢を手に位置についた。
「よし、いいな。では、これより試験を始める――始め!」
2人が位置につくと、ギルマスをさっさと試験を開始した。
「――ふっ!」
その瞬間、エリーさんは即座にリリスに向けて矢を射掛けた。
あんだけやる気なさそうだったのに、すぐに攻撃を仕掛けるだなんてなかなか強かだ。
エリーさんの放った矢も木製になっているので致命的なダメージは与えられないようになっているが、
「《
リリスはそれを避けるでもなく、ぽつりと下級魔法を唱えると、矢は明後日の方向へ向きを変えた。
「へ? 不意打ちだったのに、《
エリーさんが苦笑いを浮かべる。
魔法には、火、水、土、風、光、闇、無の7属性あり、下級、中級、上級、特級、神級と5段階の強さに分けられる。
《
そんな下級魔法で矢を防ぐことは、エリーさんの様子からすると、ちょっと異常な使い方なのかもしれない。
これは思った以上に、この世界では僕達と力の差がある気がしてきた。
「――やっ! はっ!」
エリーさんが連続で矢を放つも、《
「くっ……ただの弓じゃ全然無理ね。――『火の精霊よ、すべてを焼き尽くすその力を存分に示せ』――《
メインの弓だけによる攻撃から魔法と合わせた戦法に変え、中級火属性魔法の《
でも――、
「ふぅ……《
少し気怠そうにリリスが唱えると、彼女の目の前に水の壁が出来上がった。
エリーさんの《
「な――っ!? 中級魔法を無詠唱だなんて……」
どうやらエリーさん的には、《
そう言えば、さっきエリーさんは詠唱してたな。
僕も詠唱なんてしないし、なんなら魔法名を言わなくても無言で発動できる。
気にしてなかったけど、この世界ではあまり一般的ではないのかも。
「思った以上にレベルが低いのねぇ……これなら主様の仰る意味もわかるわ」
失望したように、リリスが頬に手を当てて溜息をつく。
「ぐむむ……確かに私の魔法は大したことはないけど、それでもちょっと悔しい……。『火の精霊、風の精霊よ、互いの力を高めて殲滅せよ』――《
エリーさんの手の平から、炎を纏った旋風がぐるぐるとリリスへ襲い掛かる。
《
彼女のとっておきかもしれないけど、リリスはそれに慌てることもなく、
「《
目と鼻の先にまで迫った《
「――《
エリーさんの周囲に氷の槍を数十本単位で展開させた。
「――!?」
「これでどうかしら? まだ続ける?」
「ひえぇ……っ、い、いえ……降参でーす!」
眼前に現れた大量の氷の槍に、エリーさんは血の気が完全に引いた顔をしている。
確かにあれは怖い、先端恐怖症になっちゃうよ。
リリスがパチンッと指を鳴らすと、エリーさんの周囲にあった氷の槍は一斉に砕け散った。
エリーさんは気が抜けたのか、その場にぺたんと座り込み、
「はあぁ〜怖かったよぉ……。マスター、もう絶対にやりませんからね! これっぽっちも相手になってないんですから!」
頬を膨らませて、プイッと明後日の方へ顔を向けて拗ねてしまった。
そりゃ目の前に大量の氷の槍の先端を向けられたら、生きた心地はしないだろうねぇ。
でも、エリーさんもちゃんと戦えるんだね。
いつもとちょっと違う雰囲気のエリーさんを見れて得した気分だ。
「ううむ、ここまでとはな……。試験はもちろん合格だ。まったく、ソーコの周りは優秀な者が多いな。歓迎するぞ、2人とも。ギルドマスターとして、期待させてもらおう」
こうしてリリスも、無事に冒険者ギルド試験を突破したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます