34.罪と罰
僕たちが冒険者ギルドに入ると、すぐに知らない受付嬢が駆け寄ってきて、「こちらへどうぞ」と奥へ案内された。
――これ、もう完全に顔覚えられてるよねぇ……。
受付カウンターにエリーさんは見当たらないので、別の仕事でもしてるのかもしれない。
受付嬢が部屋の前で止まり、扉をノックした。
すると扉が開き、
「こんにちは。どうぞ入って」
エリーさんが出迎えてくれた。
「こんにちは、エリーさん」
簡単に挨拶を交わし、部屋の中に入る。
そういえば、商人ギルドではギルド長の部屋に入ったことがあるけど、冒険者ギルドでは初めてだったかな。
ていうか、そもそも普通入れるものなの?
部屋の雰囲気は、商人ギルド長のグステンの部屋と似てて、執務用の机や応接用のソファなどがあった。
「失礼します」
「ああ、昨日はすまなかったな。座ってくれ」
テーブルを挟んで、ギルマスと対面になるように腰を下ろした。
「さて、早速で悪いが昨日の件についてだ。アイツ等から話は一通り聞いちゃいるんだが……すまんが、出来るだけ詳細に話してくれるか?」
「わかりました」
僕は『
もちろん、ここでもサポーターの話とかはぼかしてね。
「――と、まあこんな感じですかね」
「私は元々主様の従者ですけれど、はぐれてしまったのでずっとお探ししてましたの。それでようやくお会いすることができましたわ」
「フェルは、ソーコさんに仲間にと誘っていただきました。救っていただいたご恩とその気持ちに報いるため、一緒に行動させていただいてます」
僕の説明にリリスとフェルが補足してくれる。
「ふむ……お互いの内容は、ほぼ一致しているな。2人の経緯については奴等は話していなかったが、古城での話はまず間違ってないだろう」
「え、彼等が正直に話したんですか?」
ちょっと――いや、だいぶ驚いた。
だって、わざわざ自分たちの罪を重くするような事を、セシールたちが素直に話すとは思えないんだもん。
もしかして……拷問でもした?
「ああ、それには理由がある。コレだ」
ギルマスは、テーブルの陰から小さな箱を取り出した。
コレと言った箱の中には、水晶のようなものが入っているだけだった。
「コイツは『真偽の玉』といってな、相手が嘘を吐いていないか判別する魔道具だ。嘘の度合いによって光り方が変わるんでな、これでセシールたちをネチネチいじめたってことよ」
ギルマスがニヤリと口の端を持ち上げて嗤う。
なんとまあ、いい趣味をしてらっしゃる……。
でも、これを目の前にしながらしどろもどろしてるセシールたちを想像すると……ぷぷぷ、ちょっといい気味だ。
「まあ事情を聴くとはいえ、黙っててすまんな」
「いえ、それもお仕事ですし、気にしないでください」
まあ、言葉だけで信用するようなものでもないし、そんな便利な魔道具で潔白を証明できるのなら、とくに気にするようなことでもないね。
にしても、これからは話す言葉のチョイスに気をつけなきゃいけないかもしれないなぁ。
「えーと、それで……問題はなかったですか?」
「ああ、
またニヤッとするギルマス。
げっ、何かマズっちゃったか……?
「おっと、スマンスマン。今回の件に関しては、セシールたちの話と合っているから問題ないぞ。まあ、その後のそっちの嬢ちゃんたちの話だな。コイツは嘘だと判断すると赤く光るんだが、『何か隠れてる』と判断すると、淡く白く光るんだよ。んで、さっきの嬢ちゃんたちの言葉に淡く反応してな……ま、何か事情があるんだろうなって思ったわけよ」
あ……あぁー、サポーターのこととか伏せてるからか。
嘘と判断されたわけじゃないけど、それが何か隠してるって判断されたわけね。
まあ、実際だいぶ隠してるしねぇ。
うーん、でも説明してもうまく伝わらないだろうし、出来れば見逃してほしいところなんだけどなあ。
そんな僕の気持ちが顔に出てたせいか、ギルマスは豪快に笑い飛ばして、
「ハッハッ、そんな顔しなくても大丈夫だ。別に今回の件と直接は関係ないだろうし、色々と事情はあるだろう。興味はあるが……ま、無理に問いただすつもりはないさ」
ほっ、よかった。
あの魔導具でネチネチされたら、僕も正直に話すしかなくなっちゃうしね。
別にそこまで隠すほどではないかもしれないけど、面倒なことになるのは確実だろうし。
「黙して語らず」でいけるなら、そっちのほうがありがたい。
「お気遣いありがとうございます」
「ま、なにはともあれ、何事もなくて良かったよ。そうそう、それでセシール達だがな――今回の裏切り行為は重大な事件だと
「奴隷……」
どうやら、彼等の冒険はここで終わりを迎えたようだ。
まあ、
それに逃げるときに、《
ホームに関しては特に興味ないし、他のメンバーは関係ないんだから、続けるなり潰すなり好きにすればって感じだ。
「んで、そっちの……フェルと言ったか。彼女に関して商人ギルドのグステンから話があるらしい。なんでも、借金に関することだそうだ。こっちが終わったら商人ギルドへ行ってみてくれ」
「わかりました。後ほど伺います」
そういえば、フェルは借金の肩代わりでセシール達と一緒に行動してたわけだから、まだ残りがあるのかもしれない。
ま、それはもちろん僕が負担しましょう。
「次に依頼の報酬だな。今回の依頼は『古城の調査』だったんだが、古城もすっかり消えてしまったし、踏破ということで間違いない。本来は調査で報酬が30万ストなんだが、今回は踏破ということでさらに100万、合計130万だ。……この内容から考えると大分低いな。まあ、サインしてるのは俺なんだが」
あんたかい。
でもたしかに、本来ならリリス相手にって考えると、金貨13枚じゃ安い気しかしない。
でも――、
「お金よりも、リリスと再会してフェルが仲間になってくれたことの方が嬉しいですから」
「主様……!」
「ソーコ様……」
2人とも、なんだか感激した表情をしている。
フェルなんて、耳をピョコピョコ動かしててかわいい。
僕は当然のことを言ったまでだけどね。
お金なんかより、よっぽど大事なことだ。
「そう言ってもらえると助かる。――エリー、報酬を」
「はい。確認してね、ソーコちゃん」
ギルマスが促すと、エリーさんは金貨の載ったトレーを目の前に置いた。
13枚の金貨を受け取り、エリーさんにお礼を言う。
「確かに。ありがとうございます」
「さて、後は試験を受けたいって聞いてたが……」
ギルマスがちらりとリリスとフェルに目線を向ける。
リリスは余裕の表情だけど、目が合ったフェルは少し緊張した顔つきだ。
ギルマスはニッと笑って「よし!」と膝を叩いて立ち上がり、
「それじゃあ、2人の試験をしようか」
僕たちは裏手の訓練場へと移動するのだった。
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