10.冒険者ギルド

 なんだろう、すごく気持ちよく寝れた気がする。

 癒やされるような寝心地だった。

 少し前にもあった眩しいこの感じ……でも、ぐっすり寝れたから辛くはない。

 ゆっくり目を開けて横を見ると、


「おはようございます、ソーコ様」


 アンジェが準備万端でベッドに腰掛け、こっちを見て微笑んでいた。

 もしかして、僕が起きるのをずっと待ってたのかな。

 なんだか悪いことしちゃったな。


「おはよう。待たせてごめんね」


「いえ、気になさらないでください」


 顔を洗う代わりにサッと《浄化ピュリフィケーション》。


「うーん、便利だ。さっぱりしたし、眠気も飛んだ。それじゃ、朝ご飯食べに行こうか」


「はい」


 1階の食堂ホールへ行くと、リーリが席へ案内してくれた。

 朝早くからお手伝いなんて、えらいえらい。


「ソーコお姉ちゃん、もう朝早いっていう時間でもないと思うよ?」


「えっ。そ、そうかな?」


 どうりでホールに誰もいないわけだ。

 ふーむ、昨日はよっぽど疲れてたみたいだ。

 ぐっすり寝過ぎちゃって、起きるのが遅くなっちゃったかな。ちょっとだけね。

 朝食は、パンとスープにサラダだった。

 朝はこれくらいが僕にはちょうどいい。

 少し遅い朝食をとったら、今日は冒険者ギルドに行かなきゃ。

 昨日みたいに、ややこしい事にならないよう気を付けて、面倒事に巻き込まれないようにしないと。


「さて、遅くなっちゃったけど行こうか」


「はい、ソーコ様」


 ご飯を食べ終えると、すぐに冒険者ギルドへ向かった。

 場所がわからなかったので、リーリに確認してから宿を出る。


「すみませーん、これください」


「はいはい、10000ストね」


 途中、雑貨屋に入って適当なバッグを買った。

 これは、昨日インベントリからポーションを出した時にアリーさんに驚かれたので、フェイクとして使うためだ。

 この世界にインベントリを持ってるのは僕だけだろうけど、バッグに見た目以上に収納できる魔道具の『マジックバッグ』は、高額だが存在してるみたいだ。

 なので、このバッグから荷物を取り出すをして、『マジックバッグ』のようにするつもりだ。


「おぉ、こんなところに冒険者ギルドがあったのかぁ。なんだかゲームの裏側を見てるみたいでワクワクしちゃうな」


 冒険者ギルドは商人ギルドと同じ地区にあって、建物も同じくらい立派なものだった。

 ゲームのときには入れないエリアだったけど、まさかこんな所に冒険者ギルドがあるとはね。

 さてさて、今度は変に目立たないようにしないと。

 僕とアンジェは、大きな扉を開けて建物の中へ入った。


「やっぱここも中が広いなあ」


 商人ギルドに比べると見栄えで劣ってるけど、そこはまあ冒険者ギルドだしね。

 荒くれ者とかいるんでしょ?

 どうせ暴れて壊されるだろうしね。


「う……ここでもやっぱり見られてる気がする」


 商人ギルドのときも見られてたけど、こっちはなんだかイヤ〜な感じの視線。

 しかも、それを隠そうともしないっていう。

 チラチラ見てきたりガッツリ見てニヤニヤしてたり。

 面倒に巻き込まれる前に、早めに登録しちゃお。


「すみませーん、登録お願いできますか」


「わっ! あ、いらっしゃいませ。えーと、登録ですか? 依頼じゃなくて?」


 なんか驚かれた。

 やっぱあれか、僕が幼く見えるからか?

 長い金髪の受付嬢が不思議そうな顔をしている。


「はい、登録でお願いします」


「2人組で黒髪の美少女……あの、もしかして昨日商人ギルドで登録しました?」


 むむ。

 何かブツブツ呟いてたけど、まさか冒険者ギルドにまで僕らのことが伝わってるの? 

 昨日の今日なのに早過ぎないかい?


「ええ、まあ……でも、どうしてそれを?」


「ふふっ、これでわかるかなあ?」


 すると、受付嬢は前髪を分け、長い綺麗な金髪を手で束ねてみせた。


「あれ? どこかで……あっ! アリーさん!?」


 にこにこと微笑む受付嬢は、昨日、商人ギルドで受付嬢をしていたアリーさんの姿にそっくりだった。


「ふふっ、私はエリーっていうの。商人ギルドの受付をしてるのは姉よ」


 なるほど、姉妹かあ。

 やけに似てるなあって思ったよ。

 あーでも、よく似てるけど目元がちょっと違うかな。

 アリーさんも美人だったけど、エリーさんも美人だし胸元も……うん、そっくりだね!


「そうだったんですね。もちろん覚えてますよ」


「姉が昨日、『めっちゃかわいい子が登録に来たー!』って。しかも、『薬師なんていう超レア、絶対に守らなきゃ!』って張り切っててね。いやー私もそれ聞いて会ってみたかったんだけど、ほんっとかわいいね! 顔も声も全部かわいいよ!」


 ふっふーん、よくわかってらっしゃる! 

 この声も課金声で、このキャラにはお金が掛かっているのさ!

 若干興奮気味な目が怖いけど、美人なお姉さんに容姿アバターを褒められるのは嬉しいね。


「いやいや〜それほどでもないですよぉ〜」


「ソーコ様、顔に出ちゃってますよ」


 ――ハッ! 

 いかんいかん。


「うふふ。でも昨日薬師として登録したのに、冒険者としても登録するの?」


「はい。僕はそれだけでもいいんですけど、彼女のギルドカードの期限が切れちゃったみたいで。どうせなら僕も作っちゃおうかなって」


「期限切れ……カード貸してもらってもいいかな?」


 アンジェがカードを手渡すと、エリーさんはなにやら難しい顔をした。


「うーん……冒険者ランクがFなんだけど、これだと本来は1ヶ月に1回は依頼を達成しないといけないのね。これは2年も過ぎてるから、再発行じゃなくてもう1回登録しないとダメかなあ」


「あー、そうなんですか」


「申し訳ありません、ソーコ様……」


 アンジェが本当に申し訳無さそうに落ち込んでいる。


「しょうがないよ。これからは僕もいるし、ちゃんと達成していこ?」


「ソ、ソーコ様――!」


 パアッと明るさを取り戻したアンジェ。

 うん、やっぱりこっちのほうがいいね!


「うんうん。助け合いが冒険者の基本だからね! それで登録なんだけど、今は実技試験をすることになってるの。冒険者となると、最低限自衛はできないと死んじゃうからね」


 まあ、ごもっともだ。

 やたらに冒険者にして、どんどん死なれたらギルドとしても困っちゃうだろうしね。


「そうなんですね、わかりました。どんな試験内容なんですか?」


「試験官を相手に力を見せる、要は腕試しだね! といっても、相手をしてくれるのはDランクまでの冒険者だし、大きな怪我の心配はないと思うから安心して」


 なるほど、典型的な腕試しか。

 この世界に来てから初めての対人戦だし、気を引き締めなきゃ。

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