7.最悪死刑です
ギルド長の第一印象は、思ったよりも怖くなさそうな人って感じだった。
ガッチリした体型に短髪で、少し厳つそうな顔をしていたけど、それらに反して物腰は意外と柔らかい。
こうして対面に座ってみても、威圧感を感じないし。
「登録に来たのにすまないね。急で驚いたろう?」
「ええ、まさかギルド長とお会いするとは思いませんでしたので……」
「ハハハ、アリー君から聞いてね。なんでも、まだ若くて可愛らしいお嬢さんが中級ヒールポーションを作ったとか。そんな優秀な薬師ならば、是非とも会ってみたくてね」
ふっふっふっ……このおっさん、よくわかってるじゃないか――この僕の
ま、おっさんに言われても別に嬉しくないけどね。
そういう目で見られても困っちゃうし。
「それで、これがそのポーションだね」
アリーさんがテーブルの上に置いたポーションを手に取り、まじまじと眺めている。
「ううむ、素晴らしい。この澄んだ青い色、間違いなく中級だろう。これをソーコ殿が作成されたのかね?」
「はい、そうです。僕が作成したものです」
「若いのにすごいことだ。その技術はお師匠さまから?」
これはあれだね、探りを入れられてるね?
まあ、当然といえば当然か。
こんな若くて可愛い女の子が、ギルド長も驚くくらいのポーションを作ったんだもんね。
……今更だけど、下級にしとくべきだったかなぁ?
「そうですね。手ほどきは師匠から、後は修行ですかね」
銅像を建てられたとかいうたった1人のNPCの錬金術師――名前なんだっけかな?
まあ、いいや。
どうやら、この世界では、あれが僕らプレイヤーの師匠ということになるらしいし。
嫌だけども。
「ふむ、修行か。ソーコ殿はおいくつかな?」
「15歳です」
「え!?」
なんかアリーさんが驚いてる。
小声で「もっと幼いかと……」って言ってるけど、聞こえてるから!
ギルド長も声出してないだけで、驚いた顔してるし。
僕の容姿って、そんなに子供に見えるかなぁ?
「15歳……それこそ、生まれたときからお師匠様の元にいたのだろう。お父上かな? それでも、たった15歳でここまでとはね。大したものだ」
「いえ、生まれは全く違います。師匠とは、2年程前に出会った感じですかね」
あれが父親とかちょっと勘弁してもらいたい。
ガッハッハって笑うような大雑把なタイプに見えて、実はなかなかにスパルタ。
無理難題のクエストも結構あったり。
まあ、悪いやつではなかったけど。
「2年!? うーむ、素晴らしい才能だ。尚のこと驚きだな。ところで、このポーションはどれくらいの頻度で、どれくらいの量を納品できそうかね?」
ズイッと身を乗り出すギルド長。
おっと、今度はビジネスモードに切り替わったみたいだぞ。
ちょっと考えたんだけど、そもそも商業ギルドへ卸さず、直接商人に売ったほうがいいのかなって気もするんだよね。
なんかこのままだと注目浴びそうだし。
その点、直接商人と個人でやり取りするなら、秘密厳守でやり取りすることもできそうだし。
問題は、このギルド長に「やっぱり卸しません」と言えるかってところだけど。
ま、聞くだけはタダだし聞いてみよう。
「その前に1つお伺いしたいんですけど、ポーションを直接商人の方に売ることは可能ですか?」
僕としては悪気なく聞いたつもりだったけど、明らかに部屋の空気が変わった。
二人ともあからさまには表情に出さないけど、アリーさんはほんの微かに顔がこわばり、ギルド長の眉が一瞬動いた気がした。
その変化に、僕は思わず背筋を伸ばす。
やばっ、怒らせちゃったか?
「ふむ。ソーコ殿は、ポーションの取り扱いに関する『法』はご存知ではないか?」
「『法』ですか?」
なんと、まさかの法律?
AOLの世界に法律なんてあったのって感じだけど、ここが現実ならば普通はあって当たり前か。
じゃないと、無法地帯になっちゃうもんね。
「いえ、これまで修行ばかりでしたのでそういったことには疎くて……すみません」
「ああ、すまない。怒ってるわけではないんだ。2年で中級ポーションを作るほどだ。法を学ぶ時間がなくて当然、というくらいに忙しかったのだろう」
うんうん、と頷くギルド長。
ほんとはキャラの育成という名の修行なんだけど。
なんか勝手に納得してくれたから良しとしよう。
「まず、ポーション品についてだが――ほぼ、すべての国共通と言っていいだろう。基本的には国から任された商人ギルドを通すことになっている。それは薬師であってもだ。ただし、適用外と認められるものもある。例えばだがな、旅の途中に怪我人と出会ったとして、その人物がポーションを持っていなかったとしよう。そこで、ソーコ殿がポーションを譲ったとする。そこに金銭の授受が発生したとしても、まあ咎められることはないだろう」
人助けには国も目を瞑るってことか。
そうだよね、さすがにそんなことも出来ないんじゃ見捨てることになっちゃうし。
「少量を知り合いに譲ったり、商人にいくつか融通する程度なら同様に問題ないとされるが、そこに明確な基準はない。こちらとしてもあまり大っぴらには言えないがな」
基準はないということは、取り締まる側の考え一つでどうとでも出来ちゃうってことでもあるのかね?
まあ、派手にやらなければ問題なさそうだけど。
「なるほど……そうだったんですね。罰則などはあるんですか?」
「うむ、どちら側も厳しく罰せられる――最悪死刑だな」
「ぅへっ!?」
唐突な『死刑』っていうワードに変な声出ちゃったよ!
そうなると、さすがに商人との直接取引はリスクが高過ぎる。
明確な基準がないなら尚更だ。
いくら逃げることができても、一生追われる身だなんてたまんない。
清く正しく生きよう、うん。
「それは……なかなか厳しいですね」
「まあ、そうだな。ただし、これは普通の者の場合だ。ソーコ殿のような才能ある薬師が関わっている場合、国の管轄下に置かれることになるだろう」
「それってつまり……」
「奴隷、に近い扱いともいえるな」
それはそれで嫌すぎる、そんなの絶対ごめんだ!
うん、やっぱり僕は慎ましく、正しくポーションを取り扱おう。
「わかりました。では、今後はこちらに納品するということで、ギルド登録お願いできますか?」
「もちろんだとも。ソーコ殿には期待しているよ。何かあったら、すぐに言ってくれたまえ。出来る限りの協力をしよう」
ギルド長は、とってもいい笑顔で握手を求めてきたのだった。
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